浜口の勤める会社は、福利厚生が充実していることで有名だ。特に「健康診断」を軸にした働きやすい環境づくりが積極的に行われており、診断結果を元にしたオリジナルの社食や人事サポートなど幅広い「健康経営」が実施されている。年に一度の医師による健康診断の他、週に一度のパルスサーベイもあるが、浜口は徐々に関心が薄れ毎回「普通」を選択していた。
データよりも直接のコミュニケーションが大事なのではないか。と自身の考えを持つ浜口はデータの記入を適当に行っていることを笑い話に部下とのコミュニケーションを計っていた。ある日、人事部に呼び出された浜口は管轄部署のパルスサーベイの平均化について相談される。内心「あの時の会話が影響してしまったか...」と反省しながらふと人事担当者のデスクを見ると、そこには健康診断の結果だけでなく、将来予測される病気や予測寿命、さらにはそれに紐づいているようにみえる人事評価のグラフが見えてしまった。
そこでハッと気がついた。稀に妙な時期に人事異動が発表され、その後退職するケースが数件あったことを。仕事の成果が得られない人事異動かと思っていたが、もしかしてこれらも健康診断結果に基づいた人事整理であったのでは...?
「健康診断」を元にした充実した福利厚生。そして「健康経営」。
低い数値を除外し、平均値を高めることが健康だとするならば...
翌日、浜口のヘルスサーベイは「最高」と記されていた。