2025年

shortshort27

AI推進派、抑制派

自社がAIマネジメントサービスを利用して1年。
大企業の多くはすでに導入しているが、我々中小企業の導入率は10%程度。
しかし思い切ってやって良かった。

たった1年でこれだけの効率化が図れるのか、
社長である私の目標設定や指示、そして現場からの要望や苦情の調整など板挟みになるマネージャーの苦悩も解消されつつある。これまでの人事評価も評価基準が曖昧、評価者の恣意的な評価、がしばしば問題になっていたがこれも客観的なデータによって迅速なフィードバックができるようになった。業務時間も90%も削減でき素晴らしい成果を上げている。

とはいえ「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言われるぐらいだから、AIによる管理で全ての問題を解決できるわけではなく上司との対人関係に悩む社員もいる。
AI管理の推進派と抑制派の対立も少なからずあるようだ。抑制派には管理職も多く、自分の業務が代替される不安もある、と聞いた。

社員の悩み解消と抑制派をなだめる意味もあって4ヶ月前から企業コーチング研修を導入した。この判断は良かった。3Dビデオシステムも導入したので、オンラインでも精度の高いコーチングを受けられると評判だ。抑制派の管理職N氏も「自分に合うコーチで気軽に話せる、部下とのコミュニケーションも良好。たまには対面でもやりたい。」と好感触。うまくバランスが取れている。。


さて、どのタイミングで明かすべきか、
そのコーチも動画生成AIであることを。

読む

shortshort26

健康経営の健康

浜口の勤める会社は、福利厚生が充実していることで有名だ。特に「健康診断」を軸にした働きやすい環境づくりが積極的に行われており、診断結果を元にしたオリジナルの社食や人事サポートなど幅広い「健康経営」が実施されている。年に一度の医師による健康診断の他、週に一度のパルスサーベイもあるが、浜口は徐々に関心が薄れ毎回「普通」を選択していた。

データよりも直接のコミュニケーションが大事なのではないか。と自身の考えを持つ浜口はデータの記入を適当に行っていることを笑い話に部下とのコミュニケーションを計っていた。ある日、人事部に呼び出された浜口は管轄部署のパルスサーベイの平均化について相談される。内心「あの時の会話が影響してしまったか...」と反省しながらふと人事担当者のデスクを見ると、そこには健康診断の結果だけでなく、将来予測される病気や予測寿命、さらにはそれに紐づいているようにみえる人事評価のグラフが見えてしまった。

そこでハッと気がついた。稀に妙な時期に人事異動が発表され、その後退職するケースが数件あったことを。仕事の成果が得られない人事異動かと思っていたが、もしかしてこれらも健康診断結果に基づいた人事整理であったのでは...?

「健康診断」を元にした充実した福利厚生。そして「健康経営」。 低い数値を除外し、平均値を高めることが健康だとするならば...

翌日、浜口のヘルスサーベイは「最高」と記されていた。

読む

shortshort12

手遅れだったらどうしよう

 会社がHealth Coreを導入してから3年半が経った。相変わらず私はここで働いているし、スコアも良いままだ。評価に繋がったので待遇も良くなった。

 今日は久しぶりの出社だ。在宅で働いている時とは違い、他の社員たちの話し声も聞こえてくる。次の会議がどうだとか、ボーナスがどうだとか。いつもと違う状況を新鮮に感じながらぼんやりと周囲の声を聞いていると気になる会話が耳に入ってきた。
「最近知ったんだけどHealth Coreのデータって社外でも使われてるらしいよ」
その一言が耳に入った途端、それまでのゆるい気分は吹き飛んでしまった。そんなことは事前に言われていただろうか。私はさっきより集中してその会話を聴き始めた。
「そんなこと説明されてたっけ?」
「なんかね、かなり前のアップデートの時に規約更新があったみたい」

 そういえば半年ほど前に同意を求めるボタンを押したような気がする。あの時に私は規約を確認しなかった。どうせ社内で使うデータだし、今までメリットしかなかったのだから何も変わらないだろうと思ったのだ。だが社外で使われているとなると少し心持ちは違ってくる。誰に何のデータがどこまで渡っているかわからない。今までは人事や上司に見せるためにデータを出していたし、良いデータを出すコツも掴んでいた。会社を疑う訳ではないが、自分のデータが勝手に商品になっているのはなんだか不快だった。デメリットを感じると今までのやる気がすぅっと冷えていく。これから私はこのシステムにどうやって向き合えば良いのだろうか。

読む

shortshort6

上司はつらいよ

従来から導入されていたパルスサーベイの真正性に疑問をもった海野社長は、法律の改正にともない経営コンサルタントから推奨されたAIによる虚偽入力発見ツールの導入を決断し、虚偽が発覚した場合には罰則を与える(減俸、勤務評価を下げる)との通知を全社にアナウンスした。
部長の高本氏には、20人の部員があり、部長として部下のパルスサーベリの入力内容の真正性を定期的にチェックすることが要求されるようになった。研修では、部下の虚偽入力を見抜くやり方を受講し、またAIツールにより内容の矛盾を検出する機能が追加されてアラートのでた部下を個別面談・指導することが求められるようになった。
部下の小川さんは、前に導入されたパルスサーベイでは、本心とはことなる内容を入力して、上司に目を向けてほしい時にはわざと「雨」や「曇」を入力することがよくあった。今回の通達により、不安もあったが、以前、高本部長との宴席で、「私は吸い上げるだけで内容など見ない」との話があったため、従来通りお化粧をした入力を続けていた。

ある日、高本部長のモニタに小川さんに虚偽入力の可能性があるとのアラートがあがり、人事部からの通達により、高本部長は小川さんと個人面談をして報告書を提出することが求められた。高本部長は小川さんと面談の場を持ち、今後はお化粧しないことの指導を行い、報告書の提出を行った。 その後、小川さんには、入力時に、虚偽入力のアラートが頻繁にでるようになった。不安をもった小川さんは労働組合に相談したところ、おなじようなクレームがたくさん上がっていることを知った。同じような経験をしている組合員と話し合いの場をもつことで、上司と会社に対する不信感が高まっていった。

一部メンバーが労働基準管理局に組織によるパワハラとの訴え起こすことになった。高本部長は、こうした動きを人事部門から聞き、小川さんら現場社員との面談を何度となく行うことになった。社員からは会社は俺たちを信頼していないのか、個別指導はパワハラだとの声があがり、会社からは厳格な指導・対応が求められた。人情派の高本部長は、現場と本社の板挟みとなり、メンタル面での体調を崩していった。

読む

shortshort5

データなんて怖くない

海野社長の決断により様々なデータから社員スコアを図るシステムが2024年に導入されてから一年が経過した。従来から健康ポイントにより賞与加算が行わせていたが、データにより職員の働きぶりも評価され、給与や昇進にも反映される仕組みだ。
大津さんは、本システムの導入を喜び、日々の活動によりスコアが上昇し、社内でもトップレベルであることに誇りと喜びを感じていた。来年30になる大津さんは、高本部長から来年は課長に昇進する可能性が高いことを聴き、ますます業務を熱心にこなしていた。

30歳の誕生日を迎えたころ、チームリーダーになった大津さんは、半年にわたる大型案件の最終納品と次期案件の準備が重なり、多忙を極めていた。最終納品のあと複数の関係部署や取引先との打ち上げ会が続くと体調の不調を感じるようになった。気が付くと、体中にむくみを感じ、体重が急激に増加していることが分かった。異常を感じた大津さんは○○症候群と診断され1カ月の入院治療を行うことになった。
退院した大津さんは、勤務を再開したが、職場は長期入院した大津さんに気を遣うようになった。大津さんも、昔のように働くことに不安を覚えるようになっていった。気がつくと大津さんの社員スコアがかなりダウンしていることに気が付いた。

一年後、高本部長から、同僚の小川さんが課長に昇進するとの話を聞いた。小川さんは先輩ではあるが、内気で前は社員スコアも自分より低く、当然自分が先に昇進すると思っていた。確認してみると、現在は小川さんのほうが自分よりもスコアが高かった。
大津さんは、スコアの計算方法に疑問をもち、どのような基準でスコアを計算するのかを人事部門に尋ねたが、AIが計算しているとの話だけで納得のできる説明は得られなかった。
大津さんの社員スコアは、その後、徐々に低下していった。1年後、大津さんは社員スコアを導入していない会社に再就職をした。

読む

shortshort4

知らないところで

海野社長は、人事データや勤務データ・定期アンケートなどを活用し、メンタル休職者にパターンが似た従業員を予測・早期ケアを促すシステムを導入した。導入後、一年が経過して、メンタル休職者が依然多いことに不安をもった海野社長は、経営コンサルの勧めにより、推測精度を高めるために、エムフォー社のセンシティブ情報収集システムを導入し、DNA情報、脳波情報なども収集することになった。収集は本人同意が建前だが、賞与スコアにも反映するとのことで、実質的な強制であった。

戸田さんは、こうした会社の動きに不満をもっていたが、反対しても無駄だと思っていたため、データ収集に同意した。同意すると会社からは契約保養所のクーポン券や食事券などが貰えることがわかり、その後特段の不快な体験もなく当初もっていたデータ提供への拒否感が段々と少なくなっていった。その後、システムを提供したエムフォー社が経営不振となり、外資企業に買収されると事件が起こったが、経済問題に関心のない戸田さんはこのニュースに無関心で、またシステムの運営にも影響がなかったため、記憶から抜けていった。

システム導入後3年がたち、戸田さんは、義父の介護のためB県に移住することになった。このため長年努めたA社を退職し、B県での新しい仕事を探し始めた。戸田さんは転職マッチングサイトに登録し、本格的な転職活動を始めた。戸田さんは、紹介された数社で面接を受けるが、いずれに最終面談のあとで、不採用という通知を受けるケースが続いていた。

ある日、戸田さんは、SNSで、ある転職コミュニティサイトが、DNA情報やWEB閲覧履歴をもとに「就職適正スコア診断サービス」を提供しているとの記事をみかけた。エムフォー社を買収した外資企業が提供するサービスで、エムフォー社が集めた会社内での多様な情報をもとに、対象者の協調性や退職リスクを計算するというものであった。試しに、自身のデータを登録してスコアを見ると、協調性に難があり、退職リスクも高いとの判定結果が得られた。

戸田さんは、転職マッチングサイトとの契約を解除したが、この情報は裏で取引されているようで、希望する条件での就職はなかなかできなかった。

読む

shortshort2

病む人々

(日常)行動などのデータで企業が従業員の評価を行うことが当たり前になっていた2025年、常に監視されている様な環境で仕事をする人々の中には心を病む人が続出していた。
ここは、そんな人々に救いを与えてくれるデータライフカウンセラーのクリニック、人事職の狭山芳江さんが悩みを打ち明けている。

狭山  今期、成績が下がったんです。

医師  残念でしたね。

狭山  もしかしたら、こないだ私が課長がいつも食べてるのより上等なランチを食べたのがバレたのかも知れません。

医師  いや、そんなことで評価が下がることはないでしょう。

狭山  でも、すごく細かくデータを見る人なんです。あっ、でもそれ程大きく下がった訳ではないってことは、私がお風呂に入りながら企画を考えていたのが伝わって評価されたのかも。

医師  あなたが風呂場で考えてることが会社に伝わるんですか?

狭山  会社は何だって知っているんです。どうしましょう、お風呂場でくらいリラックスしたいです。

医師  データが会社に伝わらないようにできる壺をお譲りできますが、レンタルで月1万円かかるんですよね..

狭山  そんなことができるんですか? 借ります!! あっでも、お風呂場以外はどうしましょう。リビングと寝室とお風呂場で3つかな…

医師  5つセットだと割安になりますよ。

狭山  セットにします! あっ、でもお酒を飲みに行ったりする時はどうしたら会社に知られずに済むでしょう。

医師  スマホ交換サービスというのがあって、交換スマホを持って居る間は全く別の人として生活できるんですが、8時間で1万円かかるんです。

狭山  そのサービスも使います!私は救われました!!

狭山  良かったです。本日の診察料は30分で1万円になります。またのお越しをお待ちしています。

読む