#想定外

shortshort26

健康経営の健康

浜口の勤める会社は、福利厚生が充実していることで有名だ。特に「健康診断」を軸にした働きやすい環境づくりが積極的に行われており、診断結果を元にしたオリジナルの社食や人事サポートなど幅広い「健康経営」が実施されている。年に一度の医師による健康診断の他、週に一度のパルスサーベイもあるが、浜口は徐々に関心が薄れ毎回「普通」を選択していた。

データよりも直接のコミュニケーションが大事なのではないか。と自身の考えを持つ浜口はデータの記入を適当に行っていることを笑い話に部下とのコミュニケーションを計っていた。ある日、人事部に呼び出された浜口は管轄部署のパルスサーベイの平均化について相談される。内心「あの時の会話が影響してしまったか...」と反省しながらふと人事担当者のデスクを見ると、そこには健康診断の結果だけでなく、将来予測される病気や予測寿命、さらにはそれに紐づいているようにみえる人事評価のグラフが見えてしまった。

そこでハッと気がついた。稀に妙な時期に人事異動が発表され、その後退職するケースが数件あったことを。仕事の成果が得られない人事異動かと思っていたが、もしかしてこれらも健康診断結果に基づいた人事整理であったのでは...?

「健康診断」を元にした充実した福利厚生。そして「健康経営」。 低い数値を除外し、平均値を高めることが健康だとするならば...

翌日、浜口のヘルスサーベイは「最高」と記されていた。

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shortshort25

信用、信頼、真実。

私が財務部門に異動してからずっと一緒の、社内外から評判の高い8年目社員の森下くん。その森下くんが、交際中の恋人から刺されたという衝撃的な便りが届いたのも束の間、結婚詐欺で捕まった。二重に驚いたが、驚く暇もない管理職。土曜日の午前中に、報道対策会議で徴集された。

彼は、複数の女性と「結婚を前提に」お付き合いをしており、それを知った恋人Aが恋人BのSNSを見つけ直接コンタクトをとったことがきっかけだ。当然彼女たちの矛先は当然自分たちの恋人である森下くんになり、逆上した恋人Bによる犯行だった。
信用評価データを管理する金融系企業で勤務している恋人Aが、彼のとある行動をきっかけに不信感が募り、不正に彼のデータにアクセスした。行動データや購買データから、他の恋人がいるのを想像するのは容易かった。
彼の普段の仕事ぶりからは、そんな姿は想像できなかったし、恋人Aを「一緒に協業できそう」と仕事で紹介してもらったこともあった。

彼が財務部門に異動した当時は、信用評価が人事にアセスメントデータとして正式に採用される前のことだった。採用後、一度部下全員のデータを見たことがあるが、過去にクレジットカード支払滞納をしていた為海外の審査が通りやすいカードしか使えないことも、プライベートのことだから、と気にしないようにした。
時々のリモートワークが、「母方の祖母の家」と言って寝屋川の位置情報が現在地になっていることがあったが、あれは本当だったのだろうか。

今回を機に、今後信用評価のアセスメントデータが採用担当や管理職でより重要視されることは明らかだ。
私は、いままで実績など数値データだけでなく、プロセスや人柄なども重視して評価してきた。森下くんも、仕事ぶりはもちろんだが臨機応変な対応の速さや体力、取引先への態度など人柄も踏まえて信用し、評価してきた。

これから一体、何を信じればいいのだろうか。

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shortshort19

データのお化粧の罠

 朝、いつものように会社に出勤すると上司から衝撃的なことを言われた。

「これからは今まで提出していたライフログやDNAから一人ひとりにあった働き方や仕事を割り振ることになりました。」

 なんということだ!自分が今まで提出していた個人的なデータはこのようなことに使われていたのか……。
少し驚いたが自分にとっては楽になるなと感じた。今は仕事より家族との時間を大切にしたい。働いてお金が貰えるなら、仕事の内容はどうでもいい。その仕事の内容や働き方をデータから自分に合った仕事を考えてくれるなら考えなくてもいいし楽になるじゃん!!!

 そう思い、僕は興奮しながら新しく割り振られた自分の仕事内容が書かれたメールを見た。しかしそこには、自分に合っている仕事が書かれてると思いきや自分が苦手だと感じる仕事の方が多く書かれていた。不思議に思いつつもまぁ、データがそうだって言うなら…と思い、仕事を始めることにした。

 データから割り振られた仕事を始めて1ヶ月。
自分に合ってるどころか向いていない仕事が多く正直、辛い。
なぜだ?ぐるぐると考えていたところあることに気がついた。

 今まで提出していたデータはお化粧して出していたのだ。

 なるほど、だから自分には合っていなかったのか。このようなことにデータが使われるとは思っていなかったからな。うーん。正直に答えた方がいいと思うけど、誰かに見られていると思うとなんとなく答えづらい。これからどうしようか……

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shortshort15

あの時は自分じゃなかっただけ

 「欧州のAI倫理を取り入れた法制度が施行されます」
そんなニュースが流れてから私の生活は一変してしまった。

 それは、9年前に私の勤める会社がHealth Core を導入したときと同じくらいの変化だった。新しい法制度ではAIに判断を委ねることが禁止された。データに基づいた人事で業績を伸ばした会社はその勢いで経営にもAIを導入していたのだ。
それから会社は変わった。これまでとは一転して人間の判断に重きを置くようになった。現在残っている社員は私と同じようにデータで評価されることに慣れている人間ばかりで、みんな変化に戸惑っていた。

 しかし、少しずつ違いが見え始めた。評価方法が変わったことにより、上司との相性や職場での人間関係で差がつくようになってしまったのだ。今までは同じようにデータを入れておけば良い評価がもらえた。でも相手が人間だと向こうの気分ひとつで何もかもひっくり返ってしまう。何をするにも人の判断に怯える羽目になり、息苦しくなってしまった。
 9年前にデータでの評価になれず、辞めて行った人たちも同じ気持ちだったのだろうか。あの人たちが今ここにいたら私より評価が良いのだろうか。

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shortshort14

想定外

 会社と契約しているデータプロバイダーが中国の大手企業になった。それに伴ってデータが利用される範囲も変わり、毎日、関係各所への説明に追われている。データを提供している社員に対してデータを扱う社員は圧倒的に少なく、ひっきりなしに押し寄せる不安や疑問に対処するために研究でデータを集めていた自分まで駆り出される始末だ。おかげで想定外の仕事が増えて、今まで通りの生活では体力が戻らなくなってしまった。自分が提供しているデータもすっかり悪化した。

 十分な休息が取れないままデータが低迷し続けて半月ほど経った時に面談の打診がきた。過去の求職者や退職者のデータと類似した点があるとカウンセリングを受けさせるシステムがあるのだ。呑気に面談を受けているうちに仕事はどんどんたまるし、そもそもデータについての説明のせいで自分のデータが低迷している。上司にも報告が行く面談でそんなこと言えるはずもない。今は猫の手も借りたい状況なのだ。

 もう一つ困ったことがある。研究用に集めていたデータも利用範囲が変わってしまったため一度説明をし直さなければならない。しかし、個人情報と紐づけていなかったために提供者の特定ができなかった。この研究は会社の利益に関わるのでやらねばならないが、本人に満足な説明がでいないままデータを利用していいのだろうか。こんな気持ちで自分はこれからやっていけるのだろうか。

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