浜口 栄子

データ利活用の現実的な悩みを抱えつつ 知恵を絞る人事や管理者

大阪府在住の 46 歳女性。製造業の 財務部門のマネージャー職で、部下 が 30 名いる。コロナ前は 10 割出 社で、現在は 4 割在宅で勤務してい るが、対面ではない働き方にまだ慣 れないと感じている。部下たちと直 接話すことを大切にしている。

利用しているデータと活用の方法

リモートワーク中の部下の勤怠・労務管理をデータ利活用サービ スで行っている。PC のログオン・オフだけではなく、モバイル でのメール利用も含め、参考値を複数表示し、自分で確定するシ ステム。浜口さんは海外の相手への対応で終業後にスマホで会社 のメールを見る必要があり、その結果深夜にも働いていることが 役員に明らかになってしまった。 上記の勤怠管理とは別に、部門独自に Teams を使って「今始業 開始します」といったメッセージを送り合うようにしている。 サンプルチェック的に勤怠管理システムのデータとメッセージ が合っているかを確認する。 社用スマホには、人事部からの指示で、感染者の管理・濃厚接 触者の特定・出社判断をするためのアプリを入れている。アプ リによって位置情報が自動取得されるほか、毎日、自分と家族 の体温・体調のデータを手入力で報告する。

データ利活用にまつわる体験や考え

人は本来、自分 / 相手の状態をニュアンスも含めて伝える / 理解する術を持つが、データだとそのようなコミュニ ケーションを自然に行えない:「PC の利用データなどに頼 らず、元々上司は普段の仕事の様子を横目で見て、業務実 態を把握している。ただ、在宅になって、自然な把握はで きなくなった。自分は、部下に空いている時間に zoom で 話をするようにしている。課長によっては、就業開始と終 了時に 10 分程度部員と話すこともやっています」

評価は実績だけではなく、業種や被評価者の状況に応じて プロセスや人柄など、質的な要素を入れる必要があり、そ れをデータで見ることは難しい:「人事評価には数値化で きる成果だけでなく、質的な部分、プロセスや人材の状況 を鑑みた甘辛が考慮される。リモートワークが普及すると、 質的な部分の評価がしづらくなる。人とデータとの境目が どこかは難しいが、人が見ていく、というのは変わらずや るべきことだと思う」「いまの評価の仕方は成果7:人情3。 半期の数値目標だけで見るのではなく、朝早く来るとか礼 儀や人柄など、本人の努力も最終評価に考慮する」

データ提供者と閲覧者の信頼関係で成り立つもの:「居場 所、体温、PC の利用履歴などのデータを活用して、勤怠 や罹患を管理することは、人事・マネジメントと社員との 間の信頼関係で成り立つと思います。他部門や外部への漏 洩が一番怖い。そういうことがあると、提供したデータが 何に使われるかわからない、と社員たちは思い始める」

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健康経営の健康

浜口の勤める会社は、福利厚生が充実していることで有名だ。特に「健康診断」を軸にした働きやすい環境づくりが積極的に行われており、診断結果を元にしたオリジナルの社食や人事サポートなど幅広い「健康経営」が実施されている。年に一度の医師による健康診断の他、週に一度のパルスサーベイもあるが、浜口は徐々に関心が薄れ毎回「普通」を選択していた。

データよりも直接のコミュニケーションが大事なのではないか。と自身の考えを持つ浜口はデータの記入を適当に行っていることを笑い話に部下とのコミュニケーションを計っていた。ある日、人事部に呼び出された浜口は管轄部署のパルスサーベイの平均化について相談される。内心「あの時の会話が影響してしまったか...」と反省しながらふと人事担当者のデスクを見ると、そこには健康診断の結果だけでなく、将来予測される病気や予測寿命、さらにはそれに紐づいているようにみえる人事評価のグラフが見えてしまった。

そこでハッと気がついた。稀に妙な時期に人事異動が発表され、その後退職するケースが数件あったことを。仕事の成果が得られない人事異動かと思っていたが、もしかしてこれらも健康診断結果に基づいた人事整理であったのでは...?

「健康診断」を元にした充実した福利厚生。そして「健康経営」。 低い数値を除外し、平均値を高めることが健康だとするならば...

翌日、浜口のヘルスサーベイは「最高」と記されていた。

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信用、信頼、真実。

私が財務部門に異動してからずっと一緒の、社内外から評判の高い8年目社員の森下くん。その森下くんが、交際中の恋人から刺されたという衝撃的な便りが届いたのも束の間、結婚詐欺で捕まった。二重に驚いたが、驚く暇もない管理職。土曜日の午前中に、報道対策会議で徴集された。

彼は、複数の女性と「結婚を前提に」お付き合いをしており、それを知った恋人Aが恋人BのSNSを見つけ直接コンタクトをとったことがきっかけだ。当然彼女たちの矛先は当然自分たちの恋人である森下くんになり、逆上した恋人Bによる犯行だった。
信用評価データを管理する金融系企業で勤務している恋人Aが、彼のとある行動をきっかけに不信感が募り、不正に彼のデータにアクセスした。行動データや購買データから、他の恋人がいるのを想像するのは容易かった。
彼の普段の仕事ぶりからは、そんな姿は想像できなかったし、恋人Aを「一緒に協業できそう」と仕事で紹介してもらったこともあった。

彼が財務部門に異動した当時は、信用評価が人事にアセスメントデータとして正式に採用される前のことだった。採用後、一度部下全員のデータを見たことがあるが、過去にクレジットカード支払滞納をしていた為海外の審査が通りやすいカードしか使えないことも、プライベートのことだから、と気にしないようにした。
時々のリモートワークが、「母方の祖母の家」と言って寝屋川の位置情報が現在地になっていることがあったが、あれは本当だったのだろうか。

今回を機に、今後信用評価のアセスメントデータが採用担当や管理職でより重要視されることは明らかだ。
私は、いままで実績など数値データだけでなく、プロセスや人柄なども重視して評価してきた。森下くんも、仕事ぶりはもちろんだが臨機応変な対応の速さや体力、取引先への態度など人柄も踏まえて信用し、評価してきた。

これから一体、何を信じればいいのだろうか。

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