shortshort27
自社がAIマネジメントサービスを利用して1年。
大企業の多くはすでに導入しているが、我々中小企業の導入率は10%程度。
しかし思い切ってやって良かった。
たった1年でこれだけの効率化が図れるのか、
社長である私の目標設定や指示、そして現場からの要望や苦情の調整など板挟みになるマネージャーの苦悩も解消されつつある。これまでの人事評価も評価基準が曖昧、評価者の恣意的な評価、がしばしば問題になっていたがこれも客観的なデータによって迅速なフィードバックができるようになった。業務時間も90%も削減でき素晴らしい成果を上げている。
とはいえ「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言われるぐらいだから、AIによる管理で全ての問題を解決できるわけではなく上司との対人関係に悩む社員もいる。
AI管理の推進派と抑制派の対立も少なからずあるようだ。抑制派には管理職も多く、自分の業務が代替される不安もある、と聞いた。
社員の悩み解消と抑制派をなだめる意味もあって4ヶ月前から企業コーチング研修を導入した。この判断は良かった。3Dビデオシステムも導入したので、オンラインでも精度の高いコーチングを受けられると評判だ。抑制派の管理職N氏も「自分に合うコーチで気軽に話せる、部下とのコミュニケーションも良好。たまには対面でもやりたい。」と好感触。うまくバランスが取れている。。
さて、どのタイミングで明かすべきか、
そのコーチも動画生成AIであることを。
shortshort21
「おはよう、母さん。今日は大事な会議だけど、資料はちゃんと用意してくれたの?」
去年から私の上司になった息子が朝食を摂りながら声を掛けてきた。
「ええ、営業報告書ね。ちゃんと用意したから大丈夫。」
答えながら、年齢や見た目ではなく「精神年齢」で人間の価値が決まるようになったのは何十年前のことだったかしら、と思い返してみる。「データの活用が進み、同一人物の古いデータと最新のデータを比較することで我々は“精神の成長”を可視化することが可能になりました。精神の成長速度や成熟度合いによって柔軟に評価される素晴らしい時代が来たのです!」と、当時の政治家が意気揚々と語っていたっけ。「AIが算出した個々人の“精神年齢”で評価される」とかなんとか。それまでは、入社年数や実績で決まっていた昇進や異動が、普段の行動やアンケートの内容で決まると聞いた時はずいぶん焦って、高く評価されるように背伸びした答えを書いてたなぁ。でも、そんな“お化粧”もAIにはバレバレで、「この人はデータを誤魔化す程度の精神年齢だ。」と判断されてかえって評価が悪くなることを知ってからは、もう自分を良く見せようとするのを諦めちゃった。
「努力を諦めてみると案外楽だったけどね。」
そう呟いてふふっと笑うと、息子に怪訝そうな顔をされた。
「母さん、何の話してるの?とりあえず今日の会議ではよろしくね。母さんが営業を担当している精神年齢40代の顧客はうちの会社にとってもメインの顧客層だからさ。」
「精神年齢評価制度」が導入されてから社内の様子は随分変わった。まず「精神年齢40の顧客には精神年齢40の社員、20の顧客には20の社員」というように「顧客と営業担当の社員の精神年齢を合わせるべき」という考えのもと、私はサポートチームから営業職へ異動になった。それから、「精神的に成熟しているものは評価すべき」という風潮により、社員の実年齢と役職があべこべな感じになってしまった。「精神年功序列」とでも言うべきか、私の息子は21歳にして、精神年齢55と評価され、今や立派に私の上司をしている。母として嬉しい反面、社会人としてはプライドが傷つく……なんて言ってたら、またAIに精神年齢下げられちゃうかも、やめとこ。でも、本当に息子がいきいきと働いているのは喜ばしいことなのだ。見た目にコンプレックスのあった息子は中学生の頃「顔採用」という言葉を知って不安そうにしていたけれど、内面が評価される現代ではそんなものはない。「ルッキズム」という言葉も随分前に聞かなくなった。今は「メンタリズム」という言葉が取り沙汰され、日々議論が行われている。ありのままの自分の内面が評価されるということには、シビアな現実もつきまとうとニュースで報じていた。精神年齢が低いと評価された「精神年齢弱者」と呼ばれる人たちの反発の色は日々強まる一方で、クーデターも起きているらしいが、クーデターを起こせば起こすほど、精神年齢は低く評価されてしまう、とのことだった。
「そろそろ、あなたもご飯食べたらー?」
今年、17歳になる中学生の娘の部屋に声をかける。娘は日々勉強に励んでいるものの、精神年齢が卒業レベルに満たないということで、今年も去年に続き留年してしまった。
彼女は今日も朝から「精神年齢向上スクール」の課題に励んでいるらしかった。頑張っている娘が報われないことは、親としても本当に辛い。「精神年齢評価制度」は本当に正しいものなのだろうか…?………………いけない、こんなことを考えていたらまた精神年齢が下がっちゃうわ…。
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今日はリモート会議に参加する必要があり、戸田がパソコンを開けて、自分のネクタイを締めた。急にイライラが湧いてきた。彼は先日AIマネージャーに新たに提供された人格データを思い出した:
「戸田啓司:まじめで、細部を重視する指数━100%。遅刻しない指数━100%……」
AIマネージャーが就任した時、全ての人に個人データを求めたが、戸田は自分のデータを評価されたくなかったため、変更されているところが多い。AIマネージャーでも背後には誰かが操っていると思っていて、その覗かれた感じが本当に嫌い。しかし、今回、会社はAIシステムの導入で、AIが半分の事務を管理することはどうなるのか、みんなもずっと議論している。戸田もAIの管理は前と何か違いがあるのだろうか。ちょっと期待している感じさえある。
「より良い仕事状態のために、髪を整えてください。左の額から3本の髪が落ちています」
AIマネージャーの声が丁寧に届いた。戸田の思い出を断ち切った。
「あ、3本ですか」
戸田は少しショックを受けていた。事前ガイドブックを見なかったことを少し後悔し始めた。
「はい。ご協力ください」
AIの声は相変わらず優しい。細部重視の指数は画面に100%未達成の赤を表示している。
これは彼を急に緊張させた。戸田は額を手で軽く触った。
「じゃあ今は」
「よくできていますが、まだ2本あります…」
AIは笑顔の表情を送った。
額に汗が出たようで、戸田はまた触ってみたが、何も感じなかった…
この日の仕事がやっと終わった、戸田はこんなに疲れたことはないと思う。偽装された完璧な人格に疲れていると感じる。自分がAIに基準に達していないと言われた時、上司に言われるよりも気分が悪かったらしい。私はどうすればいいのか。戸田は長い間考え込んだ。
この時、先日同僚が話していた言葉が頭に浮かんだ
「私はAI管理のことについて全く知らないので、専門の授業に行くべきかな。」、「そうですね、うちの子の小学校にはAIに関する授業があるかもしれないそうです」……
「明日は専門の塾に行ってみよう!」
戸田は今日維持した髪をみだし、すぐに決めた。
shortshort15
「欧州のAI倫理を取り入れた法制度が施行されます」
そんなニュースが流れてから私の生活は一変してしまった。
それは、9年前に私の勤める会社がHealth Core を導入したときと同じくらいの変化だった。新しい法制度ではAIに判断を委ねることが禁止された。データに基づいた人事で業績を伸ばした会社はその勢いで経営にもAIを導入していたのだ。
それから会社は変わった。これまでとは一転して人間の判断に重きを置くようになった。現在残っている社員は私と同じようにデータで評価されることに慣れている人間ばかりで、みんな変化に戸惑っていた。
しかし、少しずつ違いが見え始めた。評価方法が変わったことにより、上司との相性や職場での人間関係で差がつくようになってしまったのだ。今までは同じようにデータを入れておけば良い評価がもらえた。でも相手が人間だと向こうの気分ひとつで何もかもひっくり返ってしまう。何をするにも人の判断に怯える羽目になり、息苦しくなってしまった。
9年前にデータでの評価になれず、辞めて行った人たちも同じ気持ちだったのだろうか。あの人たちが今ここにいたら私より評価が良いのだろうか。
shortshort13
従業員の運動を義務化し、ボーナスUPや昇進などで「人参ぶら下げ」作戦を行っている。しかし、どうも体重や病歴に変化がなく、結果が伴っていないと感じる。今はエクササイズセッションをWebで受けてもらい、ログで利用状況をみているが、本当にみんな成果を出そうと思ってやっているか、わからない。
最近、アプリをつかった健康サービスが進化し「運動をおこなったかどうか」や「良い食事をとったかどうか」をセンサーデバイスで測り、改ざんさせずにデータをトレードする仕組みができたらしい。これを会社でも導入するとどうだろう。確実に運動しているかがわかり、正確な情報をもとにしたプログラムだと、結果に結びつけられそう。データトレードも入れられると、社員の収入源にもなるし、会社も報酬を出さなくてよくなると思う。早速やってみよう!
海野の会社は、この仕組みが話題となり「結果にコミットする健康経営」でTarzan誌に載った。健康スコアが上がる社員は昇進し、データトレードでお小遣いまで入る。しかも「海野の会社である」ことで健康上昇志向スコアがあがり、データが高くトレードされはじめた。
80名だった社員は800名まで増え、健康経営を打ち出した経営戦略が大当たり。これにあやかるかのように海野の経営戦略を真似し始めた。
健康データを活用し、健康スコアがあがる人が昇進できる会社、
個人の健康データに全く関与しないことを宣言する会社
いまや就職探しの検索条件になっている。
最近の学生は、健康データに全く関与しない会社を選ぶ傾向があるらしい。自分の親がそうした会社に転職しはじめていることも影響しているようだ。
shortshort12
会社がHealth Coreを導入してから3年半が経った。相変わらず私はここで働いているし、スコアも良いままだ。評価に繋がったので待遇も良くなった。
今日は久しぶりの出社だ。在宅で働いている時とは違い、他の社員たちの話し声も聞こえてくる。次の会議がどうだとか、ボーナスがどうだとか。いつもと違う状況を新鮮に感じながらぼんやりと周囲の声を聞いていると気になる会話が耳に入ってきた。
「最近知ったんだけどHealth Coreのデータって社外でも使われてるらしいよ」
その一言が耳に入った途端、それまでのゆるい気分は吹き飛んでしまった。そんなことは事前に言われていただろうか。私はさっきより集中してその会話を聴き始めた。
「そんなこと説明されてたっけ?」
「なんかね、かなり前のアップデートの時に規約更新があったみたい」
そういえば半年ほど前に同意を求めるボタンを押したような気がする。あの時に私は規約を確認しなかった。どうせ社内で使うデータだし、今までメリットしかなかったのだから何も変わらないだろうと思ったのだ。だが社外で使われているとなると少し心持ちは違ってくる。誰に何のデータがどこまで渡っているかわからない。今までは人事や上司に見せるためにデータを出していたし、良いデータを出すコツも掴んでいた。会社を疑う訳ではないが、自分のデータが勝手に商品になっているのはなんだか不快だった。デメリットを感じると今までのやる気がすぅっと冷えていく。これから私はこのシステムにどうやって向き合えば良いのだろうか。
shortshort7
ノーコード開発に関する技術が進み、もともとは企画職だった矢島もシステム開発に携わるようになる。矢島自身もシステム開発業務に適性を感じたようで、プロダクトマネージャとして幸せに働いていた。
そんなある日、業務効率化DNA解析システムを、会社が導入。DNA検査の結果で、所属部署や勤務時間をパーソナライズする仕組みである。矢島は検査の結果、最適部署=システム開発、最適勤務時間=20:00-29:00となる。矢島は「勤務時間が明らかに理不尽だ!」と反発した。でも、上司からは「いや~、俺もそう思うんだけどさ…。君のDNAにとってはこれが最適なんだよ。この勤務時間変更は君のwellbeingのためなんだよ」となだめらるだけで、一向に解決策は見えない。
矢島はあきらめて、AIに指定された時間に勤務することにする。かなりきつい。「なんでこんな時間に…。なんで俺がこんな目に合わなきゃいけなんだよ…」。不満はありつつも、同じ時間を指定された仲間とも愚痴を言い合いながら何とかが頑張っていた。
そんな機関が2か月くらい経過すると、深夜に勤務することが苦じゃなくなってきた。むしろ、仕事がすいすい進む。「おお、この時間は俺にとってのゴールデンタイムなのかもしれない!すごいな、DNA!」。矢島の業績はどんどん上がっていき、成果が上がると共に、給料もあがったのである!!
……この政策は日本が、世界に先駆けて国家的に取り入れた政策である。DNAの分析結果に置いて、個人にパーソナライズされた最適の職業と勤務時間を割り振る仕組みである。
この仕組みのおかげで、日本のGDP、生産性はあがり、世界一になる。BCCやCNNでも取り上げられ、世界の最先端デジタル国家と言われるようになる。日本国民は、経済成長に大熱狂。バブル再来!
ただ、こんな働き方をずっとしていて、健康面、精神面の影響はでないのだろうか。その結末は、誰にもわからない。
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従来から導入されていたパルスサーベイの真正性に疑問をもった海野社長は、法律の改正にともない経営コンサルタントから推奨されたAIによる虚偽入力発見ツールの導入を決断し、虚偽が発覚した場合には罰則を与える(減俸、勤務評価を下げる)との通知を全社にアナウンスした。
部長の高本氏には、20人の部員があり、部長として部下のパルスサーベリの入力内容の真正性を定期的にチェックすることが要求されるようになった。研修では、部下の虚偽入力を見抜くやり方を受講し、またAIツールにより内容の矛盾を検出する機能が追加されてアラートのでた部下を個別面談・指導することが求められるようになった。
部下の小川さんは、前に導入されたパルスサーベイでは、本心とはことなる内容を入力して、上司に目を向けてほしい時にはわざと「雨」や「曇」を入力することがよくあった。今回の通達により、不安もあったが、以前、高本部長との宴席で、「私は吸い上げるだけで内容など見ない」との話があったため、従来通りお化粧をした入力を続けていた。
ある日、高本部長のモニタに小川さんに虚偽入力の可能性があるとのアラートがあがり、人事部からの通達により、高本部長は小川さんと個人面談をして報告書を提出することが求められた。高本部長は小川さんと面談の場を持ち、今後はお化粧しないことの指導を行い、報告書の提出を行った。
その後、小川さんには、入力時に、虚偽入力のアラートが頻繁にでるようになった。不安をもった小川さんは労働組合に相談したところ、おなじようなクレームがたくさん上がっていることを知った。同じような経験をしている組合員と話し合いの場をもつことで、上司と会社に対する不信感が高まっていった。
一部メンバーが労働基準管理局に組織によるパワハラとの訴え起こすことになった。高本部長は、こうした動きを人事部門から聞き、小川さんら現場社員との面談を何度となく行うことになった。社員からは会社は俺たちを信頼していないのか、個別指導はパワハラだとの声があがり、会社からは厳格な指導・対応が求められた。人情派の高本部長は、現場と本社の板挟みとなり、メンタル面での体調を崩していった。
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2030年に日本の貧困層2000万人を主な対象として施行された「データを対価とするベーシックインカム法」、通称デベ法は一定の成果を上げ、社会保障費の大幅な削減、データを活用した様々なビジネスの興隆により、日本は再び成長局面に入ろうとしていた。
もう2年以上デベ民をしている戸田さんは、最近AIによる低評価を食らってデベ民となったパートナーの小川さんを慰めていた。
戸田 元気だせよ。ゆっくり英気を養って出直せばいいじゃん。好景気なんだし。
小川 そんなこと言って、あんたはもう2年もデバ民じゃない。危機感が足りないのよ。
戸田 危機感て…、別に税金を無駄に使う立場になった訳じゃないんだし。むしろ、色んな企業のサービスのトライアルユーザとしてデータを提供できるんだからさ。我々が産業を支えてるんだぜ。
小川 私はね、何かを生み出したいのよ。あてがわれるものを消費するだけなのは嫌なの!そもそも、みんながデベ民になっちゃったら、国がつぶれちゃうじゃない。
戸田 人間は生きているだけで価値があるんだって誰かが言ってたよ。おれだって、おれが居なかったら生み出せないデータを生み出せてるんだよ。
小川 データの生成が価値ってどういう人生よ。AIに奉仕してるだけじゃない。
戸田 いや、AIを通してみんなに貢献してるってことなんじゃないかな。そして、その貢献をしたおれににみんなが返してくれてるっていう...
小川 訳が分からないわ!そんな、へびが自分の尻尾を食べるような話が続く筈がないじゃない。
shortshort2
(日常)行動などのデータで企業が従業員の評価を行うことが当たり前になっていた2025年、常に監視されている様な環境で仕事をする人々の中には心を病む人が続出していた。
ここは、そんな人々に救いを与えてくれるデータライフカウンセラーのクリニック、人事職の狭山芳江さんが悩みを打ち明けている。
狭山 今期、成績が下がったんです。
医師 残念でしたね。
狭山 もしかしたら、こないだ私が課長がいつも食べてるのより上等なランチを食べたのがバレたのかも知れません。
医師 いや、そんなことで評価が下がることはないでしょう。
狭山 でも、すごく細かくデータを見る人なんです。あっ、でもそれ程大きく下がった訳ではないってことは、私がお風呂に入りながら企画を考えていたのが伝わって評価されたのかも。
医師 あなたが風呂場で考えてることが会社に伝わるんですか?
狭山 会社は何だって知っているんです。どうしましょう、お風呂場でくらいリラックスしたいです。
医師 データが会社に伝わらないようにできる壺をお譲りできますが、レンタルで月1万円かかるんですよね..
狭山 そんなことができるんですか? 借ります!! あっでも、お風呂場以外はどうしましょう。リビングと寝室とお風呂場で3つかな…
医師 5つセットだと割安になりますよ。
狭山 セットにします! あっ、でもお酒を飲みに行ったりする時はどうしたら会社に知られずに済むでしょう。
医師 スマホ交換サービスというのがあって、交換スマホを持って居る間は全く別の人として生活できるんですが、8時間で1万円かかるんです。
狭山 そのサービスも使います!私は救われました!!
狭山 良かったです。本日の診察料は30分で1万円になります。またのお越しをお待ちしています。