2027年

shortshort14

想定外

 会社と契約しているデータプロバイダーが中国の大手企業になった。それに伴ってデータが利用される範囲も変わり、毎日、関係各所への説明に追われている。データを提供している社員に対してデータを扱う社員は圧倒的に少なく、ひっきりなしに押し寄せる不安や疑問に対処するために研究でデータを集めていた自分まで駆り出される始末だ。おかげで想定外の仕事が増えて、今まで通りの生活では体力が戻らなくなってしまった。自分が提供しているデータもすっかり悪化した。

 十分な休息が取れないままデータが低迷し続けて半月ほど経った時に面談の打診がきた。過去の求職者や退職者のデータと類似した点があるとカウンセリングを受けさせるシステムがあるのだ。呑気に面談を受けているうちに仕事はどんどんたまるし、そもそもデータについての説明のせいで自分のデータが低迷している。上司にも報告が行く面談でそんなこと言えるはずもない。今は猫の手も借りたい状況なのだ。

 もう一つ困ったことがある。研究用に集めていたデータも利用範囲が変わってしまったため一度説明をし直さなければならない。しかし、個人情報と紐づけていなかったために提供者の特定ができなかった。この研究は会社の利益に関わるのでやらねばならないが、本人に満足な説明がでいないままデータを利用していいのだろうか。こんな気持ちで自分はこれからやっていけるのだろうか。

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shortshort13

データの扱い方で会社選びをする人たち

 従業員の運動を義務化し、ボーナスUPや昇進などで「人参ぶら下げ」作戦を行っている。しかし、どうも体重や病歴に変化がなく、結果が伴っていないと感じる。今はエクササイズセッションをWebで受けてもらい、ログで利用状況をみているが、本当にみんな成果を出そうと思ってやっているか、わからない。

 最近、アプリをつかった健康サービスが進化し「運動をおこなったかどうか」や「良い食事をとったかどうか」をセンサーデバイスで測り、改ざんさせずにデータをトレードする仕組みができたらしい。これを会社でも導入するとどうだろう。確実に運動しているかがわかり、正確な情報をもとにしたプログラムだと、結果に結びつけられそう。データトレードも入れられると、社員の収入源にもなるし、会社も報酬を出さなくてよくなると思う。早速やってみよう!

 海野の会社は、この仕組みが話題となり「結果にコミットする健康経営」でTarzan誌に載った。健康スコアが上がる社員は昇進し、データトレードでお小遣いまで入る。しかも「海野の会社である」ことで健康上昇志向スコアがあがり、データが高くトレードされはじめた。

 80名だった社員は800名まで増え、健康経営を打ち出した経営戦略が大当たり。これにあやかるかのように海野の経営戦略を真似し始めた。

健康データを活用し、健康スコアがあがる人が昇進できる会社、
個人の健康データに全く関与しないことを宣言する会社
いまや就職探しの検索条件になっている。
 最近の学生は、健康データに全く関与しない会社を選ぶ傾向があるらしい。自分の親がそうした会社に転職しはじめていることも影響しているようだ。

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shortshort11

私のデータジョークがハラスメントなわけがない

 「田中君、まだまだ若いのに血圧高めなの怖いよ〜笑 今日はもうこれ以上脂っこいもの食べすぎないでよ」
「あ、でた!前も田中君言われてなかった?笑」
「耳タコですよ高本さん笑 いつも俺にだけ手厳しいんだから」
 繁忙期を抜け、開くことのできた担当フロアの飲み会。42歳にもなると部下も以前より増えたが、長い間部下である田中君には血圧の心配をするネタが鉄板となっている。
思えば部下のデータをチェックするようになった当初は、これで部下の状態や事情をいち早く察知しなきゃ、でもその分ハラスメントには気をつけよう、と肩肘を張っていた。
同意さえあればあらゆる生活面でデータが利用される昨今、今や相手のプライバシーな情報を持っている上での話は当たり前。この前もお互いの健康診断のデータを勘違いしていたすれ違いネタがM-1で話題になってたっけ。

 女子大の同級生である友人は、40の時に「日本はこのままだとデータ利活用の後進国になる、未来が見えない」と言って一念発起しアメリカに移住した。そんな理由で40から慣れない環境に?と心配していたけれど、どうやら現在は企業で働きながら、海外のデータ利活用最新事情について発信するインフルエンサーになりSNSのフォロワー数も鰻登りのようだ。
帰りがけにその事をふと思い出しSNSを見ると、「日本はハラスメントの線引きがおかしい事に気づけていますか?個人情報を含むデータ利活用について制限を設けるべきと主張する人がいる一方で、プライバシーに踏み込むのは悪いことではないという風潮、お笑いのネタにされる始末。最新の海外事情では…」という彼女の投稿が目に入った。
一瞬、今日の発言を思い返してドキッとする。でも日本ではデータジョークはもう大衆的に受け入れられていて、アメリカとは土壌が違うしね。同窓会で久しぶりに会うのが楽しみだったけれど「海外かぶれ」の今の彼女とはもう話が合わないかもしれないな…。

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shortshort10

ありふれた毎日のビザ

戸田啓司は現在52歳。会社に言われるがまま、ヘルスウォッチアプリを毎日つけ、メンタルの状態を入力している。今日は、昨日娘と喧嘩をしたため「最悪」に評価をつけた。25歳になる娘と就活に関して言い合いになったのだ。就活生の中で、リモートワークの有無や福利厚生と並び「配属や待遇へのパーソナルデータ利活用の度合い」が注目されるようになってきたらしい。健康データを会社にとられていることを非難された。家族との時間を大切にしながら、働き続けているのにむなしい。今日は娘の好物の麻婆豆腐を作って許してもらおう。娘が帰ってきたようだ。

娘の怒りはどうやら昨日より増している。え、中国での信用スコアが下がっている?中国に行ったこともないのに。
今、中国人の王さんと交際中?聞いていないぞ。
王さんが利用している中国の信用スコアのアプリで、父親の評価が非常に低いことを心配されたそうだ。

どうやら、会社が導入しているヘルスウォッチのサービスのプロバイダーが2年前に倒産して、中国企業に買収されたらしい。しかも、業務で健康管理されるだけでなく、中国の信用スコアにまで影響していたなんて。
知らなかった。今からでも良いデータを入力すれば、挽回できるのだろうか。良いデータが作成できると同僚の大津が言っていたジムに行ってみよう…

幸い、娘も王さんもデータのみで管理されることを避けていて、信用スコアをそこまで信用していないらしい。娘はデータを収集しない会社に勤めているし、王さんは最低限必要なデータを提供しながら、スコアをうまく保っているそうだ。
ただ、このままのスコアでは中国への入国審査が厳しいそうだ。

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shortshort9

知らない自分のデータ化

大手システム開発会社の営業職。外回りが多いので就業時間はスマホの勤務管理システムとGPSで管理されている。営業の成績に加え、勤怠状態も良いので、お客様には感謝され、上司には評価されている。

最近は新入社員と一緒に営業に出るようにしているが、いろいろ手間がかかるので、スムーズに仕事が出来ないことが多い。勤務状態を監視されているので、自分の不手際だと思われたくないので、注意をするようにしている。

そんなある日、米国シリコンバレーの大企業に再就職ができるチャンスが回ってきた。セカンドライフは海外に住みたいと思っていた。自分なら業績も良いし、問題ないだろうと思い、はりきって応募をしてみた。

ところが、書類審査で不採用となった。不服なので問い合わせてみると、以下の回答だった:
残業が多すぎる=タイムマネージメントのスキルが少ない
自分の仕事ばかりで部下のサポート時間が少ない=人材育成の能力がない
部下からの多面評価の点数が低い=上司・人間性に問題がある


日本の企業では評価の対象である勤勉さや自分本位での業績の良さは、タイムマネージメントやチームワークを重視するアメリカの企業では評価がされないようだ。

良かれと思って蓄積してきたデータをアメリカ視点で見ると、誰も教えてくれなかった客観的・グローバルな視点での自分を知ることができた。気持ちを切り替えて、海外でも通用するようなセカンドライフを生きようと思う。

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shortshort8

美しいデータ

私は自分の食生活や運動習慣を厳しくコントロールしている。周りからは意識が高いって言われるけど、自分のことを自分で管理できないなんて甘すぎると思わない?

普段使っているヘルスケアアプリは健康データやバイタルデータの成績に応じてポイントがもらえるんだけど、最近そのサービスがアメリカの企業に買収されて、提供できるデータの幅ともらえる報酬が拡大されたの…

━好機!これで私のこの美しいデータがもっと評価される!
ああでも昨日は睡眠時間が理想より3分も少なかった…。もっと日々の暮らしを厳密にコントロールしなきゃね。

せっかくだから周りの人も管理してあげようと思って、美しいデータを作るためのコンサルとデータ作成代行事業も始めたんだけど、みんな意識低すぎない?いい生活はいいデータから作られるのに…。美しいデータを作ればお金がもらえるし、それでまた自己投資できるんだから。もし必要であればあなたのデータも管理するけど…?

最近は歩数を稼ぐために鳩を飼い始めてるの。鳩の頭に歩数計を付けておけば、彼らがポッポと首を振るたびに歩数がカウントされる仕組み。睡眠データはウサギに作ってもらってるし、体脂肪率のデータはづくりはヘビに手伝ってもらってる。
家が動物園みたいになってきたけど、しょうがないよね。これも美しいデータを作るための自己投資なんだから。
ああ…またヘビがウサギを食べようとしている…。でももうベッドに入らなきゃ。あと53秒で寝る時間だから…。

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shortshort7

遺伝子が知るワタシ

ノーコード開発に関する技術が進み、もともとは企画職だった矢島もシステム開発に携わるようになる。矢島自身もシステム開発業務に適性を感じたようで、プロダクトマネージャとして幸せに働いていた。
そんなある日、業務効率化DNA解析システムを、会社が導入。DNA検査の結果で、所属部署や勤務時間をパーソナライズする仕組みである。矢島は検査の結果、最適部署=システム開発、最適勤務時間=20:00-29:00となる。矢島は「勤務時間が明らかに理不尽だ!」と反発した。でも、上司からは「いや~、俺もそう思うんだけどさ…。君のDNAにとってはこれが最適なんだよ。この勤務時間変更は君のwellbeingのためなんだよ」となだめらるだけで、一向に解決策は見えない。
矢島はあきらめて、AIに指定された時間に勤務することにする。かなりきつい。「なんでこんな時間に…。なんで俺がこんな目に合わなきゃいけなんだよ…」。不満はありつつも、同じ時間を指定された仲間とも愚痴を言い合いながら何とかが頑張っていた。
そんな機関が2か月くらい経過すると、深夜に勤務することが苦じゃなくなってきた。むしろ、仕事がすいすい進む。「おお、この時間は俺にとってのゴールデンタイムなのかもしれない!すごいな、DNA!」。矢島の業績はどんどん上がっていき、成果が上がると共に、給料もあがったのである!!

……この政策は日本が、世界に先駆けて国家的に取り入れた政策である。DNAの分析結果に置いて、個人にパーソナライズされた最適の職業と勤務時間を割り振る仕組みである。
この仕組みのおかげで、日本のGDP、生産性はあがり、世界一になる。BCCやCNNでも取り上げられ、世界の最先端デジタル国家と言われるようになる。日本国民は、経済成長に大熱狂。バブル再来!
ただ、こんな働き方をずっとしていて、健康面、精神面の影響はでないのだろうか。その結末は、誰にもわからない。

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