shortshort24
先日、ママ友の佐々木さんが昇進した。
彼女は私と同じ会社で働いていて、日頃の子育ての悩みをお互いに共有できるありがたい存在だ。
あの忙しさで昇進できるなんて、一体彼女はいつ仕事の時間をとっていたのだろうか。
まさか‥‥‥
今の時代個人データが自由に売り買いできる。もしかしたら佐々木さんは誰かのデータを購入し、自分のものとして提出していたんじゃないだろうか?
私は彼女の人柄を知っている。彼女は面倒見が良く、私の相談も親身になって聞いてくれる姉御肌な人だ。決して偽造データを渡すだなんて卑怯なことはしないはず。
しかし、私は同僚を通じて彼女のデータ取引についての噂をたびたび聞いていたのだ。
私の会社ではパルスサーベイを実施しており、4段階評価でシステムに入力し社員の状態を把握している。勤務状況もその中に含まれていて、基本的にデータ内容は人事や上司が見ることができる。同僚から聞いた話によると、先月勤怠システムの打刻漏れがあったとき全員の勤務状況が含まれた画面のスクリーンショットが全員に送られ、その時見えた佐々木さんの勤務状況が残業も多く、目を疑ったというのだ。
私と同じような状況で彼女がそれほど仕事に費やせる時間が取れていることがどうも納得いかない。この前聞いた話では家庭のストレスで仕事に集中できないと愚痴をこぼしていたじゃないか。これを根も葉もない妄想だと言い切れるだろうか。私の勤務時間は佐々木さんより少ないかもしれないが、仕事の効率を考えながら成果をあげているのにこの仕打ちはいくらなんでも悔しい。
誰もがデータの出所を確認する術もなく、評価し、そのデータに翻弄されてしまうのだろうか。彼女の勤務時間が異常だとなぜ上司は気づかない?彼女の話を聞けば無茶というか、偽造だとすぐに分かるものじゃないか。これもデータ依存の副作用か。誰もデータを疑おうとしない。もし、このまま何もかもがデータで評価されてしまうのなら、より良いデータを提出することに注力する事態になってしまう。データさえ入手すれば、それが功績になるなんて私は人をどう信じたらいいのか。仕事の目的も友人も失いそうだ。
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最近、メンタル不調から復帰したメンバーが入った。どうしても先入観をもってしまい、気を使ったり、仕事を振れなかったりする。
そんなこともあり、自分は先入観を持たれないようにしようと思っている。あぁ、今日もまた、気持ちとは裏腹に、元気に見えるよう、仕事も順調っぽくなるよう、パルスサーベイで晴れマークをつけてしまった。
そんなある日、一通の通知書がきた。先日、心身の疲れからお腹が痛くなり、内科に通ったようだが、パルスサーベイの結果と違うからデータをお化粧せずに正しく報告せよ、という内容であった。次、もしお化粧すると、偽造罪になると書かれてある。急に怖くなった。
本当は2人目の子育てのつらさや、仕事の苦労から精神的にも鬱々しており、病院に行った方がいいと思う。でも、だからといってパルスサーベイで正しく雨マークにつけたら仕事の不利にならないかと、心配になってしまう。
このモヤモヤした気持ちをママ友に話したところ、偽造罪とAIに判別されないよう、うまいこと診断書を書いてくれる病院があるよと、紹介してくれた。つい先日、彼女もその病院に行ったらしい。私も行ってみようと思う。
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従来から導入されていたパルスサーベイの真正性に疑問をもった海野社長は、法律の改正にともない経営コンサルタントから推奨されたAIによる虚偽入力発見ツールの導入を決断し、虚偽が発覚した場合には罰則を与える(減俸、勤務評価を下げる)との通知を全社にアナウンスした。
部長の高本氏には、20人の部員があり、部長として部下のパルスサーベリの入力内容の真正性を定期的にチェックすることが要求されるようになった。研修では、部下の虚偽入力を見抜くやり方を受講し、またAIツールにより内容の矛盾を検出する機能が追加されてアラートのでた部下を個別面談・指導することが求められるようになった。
部下の小川さんは、前に導入されたパルスサーベイでは、本心とはことなる内容を入力して、上司に目を向けてほしい時にはわざと「雨」や「曇」を入力することがよくあった。今回の通達により、不安もあったが、以前、高本部長との宴席で、「私は吸い上げるだけで内容など見ない」との話があったため、従来通りお化粧をした入力を続けていた。
ある日、高本部長のモニタに小川さんに虚偽入力の可能性があるとのアラートがあがり、人事部からの通達により、高本部長は小川さんと個人面談をして報告書を提出することが求められた。高本部長は小川さんと面談の場を持ち、今後はお化粧しないことの指導を行い、報告書の提出を行った。
その後、小川さんには、入力時に、虚偽入力のアラートが頻繁にでるようになった。不安をもった小川さんは労働組合に相談したところ、おなじようなクレームがたくさん上がっていることを知った。同じような経験をしている組合員と話し合いの場をもつことで、上司と会社に対する不信感が高まっていった。
一部メンバーが労働基準管理局に組織によるパワハラとの訴え起こすことになった。高本部長は、こうした動きを人事部門から聞き、小川さんら現場社員との面談を何度となく行うことになった。社員からは会社は俺たちを信頼していないのか、個別指導はパワハラだとの声があがり、会社からは厳格な指導・対応が求められた。人情派の高本部長は、現場と本社の板挟みとなり、メンタル面での体調を崩していった。