戸田 啓司

報酬次第でデータ利活用に賛同

埼玉県在住の47歳男性。不動産企業の総務部に勤務。現在は在宅が7割。「自分はもう出世コースは降りた」と考えており、今後は家族とより良い関係を築いていくことが目標。

利用しているデータと活用の方法

2年前に会社の保険組合が、健康診断で異常値が出る社員が増えたことを理由に、「ヘルスウォッチ」アプリを全社員に導入した。毎日、体重・歩数・血圧・三食の内容・水分量・起床時間・就寝時間・睡眠の質・メンタル状態・気分・運動内容を入力する。スマホやスマートウォッチ、体重計などともデータ連携でき、食事の内容は選択式になっていて、一度選んだものが上位にくるなど、毎日負担なく継続入力できるUIになっている。データから毎日の健康スコアが示され、医師のアバターがアドバイスをくれる。

データ利活用にまつわる体験や考え

自分にデータ提供の決定権はないと思い込み、データがどう使われるかも興味がない:             「会社からの説明は、目的やアプリ導入方法が書かれたメールが来ただけ。アプリでデータの利用範囲に関する同意にレ点を打った気がするがあまり覚えていない」     「個人は特定せずに、会社の傾向を取るのかなぁ、でも人事や産業医は、何か業務上で健康を害した人については個人を特定して見るのかなぁ。会社が決めた事だから、深く考えずに毎日データを送っています」

ポイントの付与・同調圧力が入力のモチベーション:  「毎日入力していると、Pontaポイントがもらえるのでみんなやっていますね」                「本当は健康や体のデータがこんなに会社に取られているのは気持ち悪いけれど、平社員の自分が言っても無駄ですし、特に反対もしませんでした」            「案外社員同士の会話の種にもなります」

データは誰も見ていなければ素直に入力し、誰かが見ていれば「お化粧する」:                 「今は誰も見ていないと思うので、メンタル自己評価は素直に毎日最悪をつけたり、健康スコアも大体40点台で推移している。もし人事などが見ているとわかれば、データをお化粧する」

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TAZAZON(個人データ売買サイト)

 もしも、特定の個人のデータを不特定多数の誰でも購入できるようになったら、どんな世界がやってくるのだろうか。
 坂本龍一のようにガンになった有名人のPHRはデータ売買サイトに出され、同様の病気になった人がそのデータを買い、どのような対応をしていくような世界になるのだろうか。しかも、坂本龍一だったなら、そのデータでの収益を医療医薬の開発に寄付してしまうのではないだろうか。そのような社会貢献のようなカタチを取るサービスを検討するのも重要ではないだろうか。
 一方で、購入したデータが本当のデータなんだろうか、データは化粧されたデータであったり、データの名前が有名人なだけで、赤の他人のデータをつかまされてしまうような犯罪が起こったりもするのではないだろうか。また、乗っ取りという形でデータが売買され、データを性的な取り扱いとして売買されたり、子供たちが危険に巻きこまれるような世界がきたりすることもあるのだろうか。
 このような状況の中で、安全に特定の個人のデータを売買でき、有用に取り扱う事ができるようにするにはどのような仕組みをつくれば良いだろうか。

 このような問題意識を元に作成したシステムがTAZAZONです!じゃーーーん⭐︎
 TAZAZONでは、取り扱うデータの安全性、本人データである信頼性が担保されているシステムで、売買されるデータの入手先、年齢、情報提供の方法などにポリシーがあり、人々から安心して使用される事が可能となっています。世界中の人のデータが有効に売買する事ができ、バージョンによっては、特定の個人を外すことによって定量的なデータを購入することも可能。オプションとして、思いっきりマニアックな質的なナラティブ情報を安全に入手することもできるため、極めて症例が少ないケースなども見る事が可能になる。

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AIマネージャーが来たらどうするか?

 今日はリモート会議に参加する必要があり、戸田がパソコンを開けて、自分のネクタイを締めた。急にイライラが湧いてきた。彼は先日AIマネージャーに新たに提供された人格データを思い出した:
「戸田啓司:まじめで、細部を重視する指数━100%。遅刻しない指数━100%……」
 AIマネージャーが就任した時、全ての人に個人データを求めたが、戸田は自分のデータを評価されたくなかったため、変更されているところが多い。AIマネージャーでも背後には誰かが操っていると思っていて、その覗かれた感じが本当に嫌い。しかし、今回、会社はAIシステムの導入で、AIが半分の事務を管理することはどうなるのか、みんなもずっと議論している。戸田もAIの管理は前と何か違いがあるのだろうか。ちょっと期待している感じさえある。

「より良い仕事状態のために、髪を整えてください。左の額から3本の髪が落ちています」
AIマネージャーの声が丁寧に届いた。戸田の思い出を断ち切った。
「あ、3本ですか」
戸田は少しショックを受けていた。事前ガイドブックを見なかったことを少し後悔し始めた。
「はい。ご協力ください」
AIの声は相変わらず優しい。細部重視の指数は画面に100%未達成の赤を表示している。
これは彼を急に緊張させた。戸田は額を手で軽く触った。
「じゃあ今は」
「よくできていますが、まだ2本あります…」
AIは笑顔の表情を送った。
額に汗が出たようで、戸田はまた触ってみたが、何も感じなかった…

 この日の仕事がやっと終わった、戸田はこんなに疲れたことはないと思う。偽装された完璧な人格に疲れていると感じる。自分がAIに基準に達していないと言われた時、上司に言われるよりも気分が悪かったらしい。私はどうすればいいのか。戸田は長い間考え込んだ。
この時、先日同僚が話していた言葉が頭に浮かんだ
「私はAI管理のことについて全く知らないので、専門の授業に行くべきかな。」、「そうですね、うちの子の小学校にはAIに関する授業があるかもしれないそうです」……
「明日は専門の塾に行ってみよう!」
戸田は今日維持した髪をみだし、すぐに決めた。

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データのお化粧の罠

 朝、いつものように会社に出勤すると上司から衝撃的なことを言われた。

「これからは今まで提出していたライフログやDNAから一人ひとりにあった働き方や仕事を割り振ることになりました。」

 なんということだ!自分が今まで提出していた個人的なデータはこのようなことに使われていたのか……。
少し驚いたが自分にとっては楽になるなと感じた。今は仕事より家族との時間を大切にしたい。働いてお金が貰えるなら、仕事の内容はどうでもいい。その仕事の内容や働き方をデータから自分に合った仕事を考えてくれるなら考えなくてもいいし楽になるじゃん!!!

 そう思い、僕は興奮しながら新しく割り振られた自分の仕事内容が書かれたメールを見た。しかしそこには、自分に合っている仕事が書かれてると思いきや自分が苦手だと感じる仕事の方が多く書かれていた。不思議に思いつつもまぁ、データがそうだって言うなら…と思い、仕事を始めることにした。

 データから割り振られた仕事を始めて1ヶ月。
自分に合ってるどころか向いていない仕事が多く正直、辛い。
なぜだ?ぐるぐると考えていたところあることに気がついた。

 今まで提出していたデータはお化粧して出していたのだ。

 なるほど、だから自分には合っていなかったのか。このようなことにデータが使われるとは思っていなかったからな。うーん。正直に答えた方がいいと思うけど、誰かに見られていると思うとなんとなく答えづらい。これからどうしようか……

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医療データ改竄、NFTへの大きな疑義 医療用AIへも影響

 2030年4月25日、警視庁は電磁的記録不正作出の容疑で東京都戸田啓司容疑者を逮捕した。

 近年、健康データのNFT(非代替性トークン)を用いた売買が認知されてきている。容疑者は、特定の個人の医療データが紐づけられたNFTを偽造した容疑が持たれている。
通常NFTは偽造が不可能であるとされる。しかし、NFTは単独の取引所であれば、取引所内でデータの唯一性が保証されるが、取引所を跨げば唯一性が保証されないことはあまり知られていない。

 容疑者はA取引所で流通しているデータのデータ元サーバーにデータを改竄した上で、別のB取引所で売買を行なったと考えられている。 さらに、容疑者は単純にデータの売却を行なっていただけでなく、データの売買を通じてマネーロンダリングを行っていた事が発覚した。そのため、警察は容疑者の背後に国際的なシンジケートが関与していたものとして捜査をしている。

 この事件はNFTそのものの信頼を傷つけると考えられるが、余波はそれにとどまらないと予測される。
偽造されたデータによって学習された医療用AIが存在し、AIの学習が汚染されてしまっている可能性が指摘されている。これによって広く利用されていた医療用AIについても利用に疑義が出る状態となっている。今後、医療全体でのデータの利活用をめぐる議論が巻き起こることは避けられない見通しだ。

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ありふれた毎日のビザ

戸田啓司は現在52歳。会社に言われるがまま、ヘルスウォッチアプリを毎日つけ、メンタルの状態を入力している。今日は、昨日娘と喧嘩をしたため「最悪」に評価をつけた。25歳になる娘と就活に関して言い合いになったのだ。就活生の中で、リモートワークの有無や福利厚生と並び「配属や待遇へのパーソナルデータ利活用の度合い」が注目されるようになってきたらしい。健康データを会社にとられていることを非難された。家族との時間を大切にしながら、働き続けているのにむなしい。今日は娘の好物の麻婆豆腐を作って許してもらおう。娘が帰ってきたようだ。

娘の怒りはどうやら昨日より増している。え、中国での信用スコアが下がっている?中国に行ったこともないのに。
今、中国人の王さんと交際中?聞いていないぞ。
王さんが利用している中国の信用スコアのアプリで、父親の評価が非常に低いことを心配されたそうだ。

どうやら、会社が導入しているヘルスウォッチのサービスのプロバイダーが2年前に倒産して、中国企業に買収されたらしい。しかも、業務で健康管理されるだけでなく、中国の信用スコアにまで影響していたなんて。
知らなかった。今からでも良いデータを入力すれば、挽回できるのだろうか。良いデータが作成できると同僚の大津が言っていたジムに行ってみよう…

幸い、娘も王さんもデータのみで管理されることを避けていて、信用スコアをそこまで信用していないらしい。娘はデータを収集しない会社に勤めているし、王さんは最低限必要なデータを提供しながら、スコアをうまく保っているそうだ。
ただ、このままのスコアでは中国への入国審査が厳しいそうだ。

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知らないところで

海野社長は、人事データや勤務データ・定期アンケートなどを活用し、メンタル休職者にパターンが似た従業員を予測・早期ケアを促すシステムを導入した。導入後、一年が経過して、メンタル休職者が依然多いことに不安をもった海野社長は、経営コンサルの勧めにより、推測精度を高めるために、エムフォー社のセンシティブ情報収集システムを導入し、DNA情報、脳波情報なども収集することになった。収集は本人同意が建前だが、賞与スコアにも反映するとのことで、実質的な強制であった。

戸田さんは、こうした会社の動きに不満をもっていたが、反対しても無駄だと思っていたため、データ収集に同意した。同意すると会社からは契約保養所のクーポン券や食事券などが貰えることがわかり、その後特段の不快な体験もなく当初もっていたデータ提供への拒否感が段々と少なくなっていった。その後、システムを提供したエムフォー社が経営不振となり、外資企業に買収されると事件が起こったが、経済問題に関心のない戸田さんはこのニュースに無関心で、またシステムの運営にも影響がなかったため、記憶から抜けていった。

システム導入後3年がたち、戸田さんは、義父の介護のためB県に移住することになった。このため長年努めたA社を退職し、B県での新しい仕事を探し始めた。戸田さんは転職マッチングサイトに登録し、本格的な転職活動を始めた。戸田さんは、紹介された数社で面接を受けるが、いずれに最終面談のあとで、不採用という通知を受けるケースが続いていた。

ある日、戸田さんは、SNSで、ある転職コミュニティサイトが、DNA情報やWEB閲覧履歴をもとに「就職適正スコア診断サービス」を提供しているとの記事をみかけた。エムフォー社を買収した外資企業が提供するサービスで、エムフォー社が集めた会社内での多様な情報をもとに、対象者の協調性や退職リスクを計算するというものであった。試しに、自身のデータを登録してスコアを見ると、協調性に難があり、退職リスクも高いとの判定結果が得られた。

戸田さんは、転職マッチングサイトとの契約を解除したが、この情報は裏で取引されているようで、希望する条件での就職はなかなかできなかった。

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悟りを開く人々

2030年に日本の貧困層2000万人を主な対象として施行された「データを対価とするベーシックインカム法」、通称デベ法は一定の成果を上げ、社会保障費の大幅な削減、データを活用した様々なビジネスの興隆により、日本は再び成長局面に入ろうとしていた。
もう2年以上デベ民をしている戸田さんは、最近AIによる低評価を食らってデベ民となったパートナーの小川さんを慰めていた。

戸田  元気だせよ。ゆっくり英気を養って出直せばいいじゃん。好景気なんだし。

小川  そんなこと言って、あんたはもう2年もデバ民じゃない。危機感が足りないのよ。

戸田  危機感て…、別に税金を無駄に使う立場になった訳じゃないんだし。むしろ、色んな企業のサービスのトライアルユーザとしてデータを提供できるんだからさ。我々が産業を支えてるんだぜ。

小川  私はね、何かを生み出したいのよ。あてがわれるものを消費するだけなのは嫌なの!そもそも、みんながデベ民になっちゃったら、国がつぶれちゃうじゃない。

戸田  人間は生きているだけで価値があるんだって誰かが言ってたよ。おれだって、おれが居なかったら生み出せないデータを生み出せてるんだよ。

小川  データの生成が価値ってどういう人生よ。AIに奉仕してるだけじゃない。

戸田  いや、AIを通してみんなに貢献してるってことなんじゃないかな。そして、その貢献をしたおれににみんなが返してくれてるっていう...

小川  訳が分からないわ!そんな、へびが自分の尻尾を食べるような話が続く筈がないじゃない。

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