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みや

shortshort15

あの時は自分じゃなかっただけ

 「欧州のAI倫理を取り入れた法制度が施行されます」
そんなニュースが流れてから私の生活は一変してしまった。

 それは、9年前に私の勤める会社がHealth Core を導入したときと同じくらいの変化だった。新しい法制度ではAIに判断を委ねることが禁止された。データに基づいた人事で業績を伸ばした会社はその勢いで経営にもAIを導入していたのだ。
それから会社は変わった。これまでとは一転して人間の判断に重きを置くようになった。現在残っている社員は私と同じようにデータで評価されることに慣れている人間ばかりで、みんな変化に戸惑っていた。

 しかし、少しずつ違いが見え始めた。評価方法が変わったことにより、上司との相性や職場での人間関係で差がつくようになってしまったのだ。今までは同じようにデータを入れておけば良い評価がもらえた。でも相手が人間だと向こうの気分ひとつで何もかもひっくり返ってしまう。何をするにも人の判断に怯える羽目になり、息苦しくなってしまった。
 9年前にデータでの評価になれず、辞めて行った人たちも同じ気持ちだったのだろうか。あの人たちが今ここにいたら私より評価が良いのだろうか。

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shortshort14

想定外

 会社と契約しているデータプロバイダーが中国の大手企業になった。それに伴ってデータが利用される範囲も変わり、毎日、関係各所への説明に追われている。データを提供している社員に対してデータを扱う社員は圧倒的に少なく、ひっきりなしに押し寄せる不安や疑問に対処するために研究でデータを集めていた自分まで駆り出される始末だ。おかげで想定外の仕事が増えて、今まで通りの生活では体力が戻らなくなってしまった。自分が提供しているデータもすっかり悪化した。

 十分な休息が取れないままデータが低迷し続けて半月ほど経った時に面談の打診がきた。過去の求職者や退職者のデータと類似した点があるとカウンセリングを受けさせるシステムがあるのだ。呑気に面談を受けているうちに仕事はどんどんたまるし、そもそもデータについての説明のせいで自分のデータが低迷している。上司にも報告が行く面談でそんなこと言えるはずもない。今は猫の手も借りたい状況なのだ。

 もう一つ困ったことがある。研究用に集めていたデータも利用範囲が変わってしまったため一度説明をし直さなければならない。しかし、個人情報と紐づけていなかったために提供者の特定ができなかった。この研究は会社の利益に関わるのでやらねばならないが、本人に満足な説明がでいないままデータを利用していいのだろうか。こんな気持ちで自分はこれからやっていけるのだろうか。

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shortshort12

手遅れだったらどうしよう

 会社がHealth Coreを導入してから3年半が経った。相変わらず私はここで働いているし、スコアも良いままだ。評価に繋がったので待遇も良くなった。

 今日は久しぶりの出社だ。在宅で働いている時とは違い、他の社員たちの話し声も聞こえてくる。次の会議がどうだとか、ボーナスがどうだとか。いつもと違う状況を新鮮に感じながらぼんやりと周囲の声を聞いていると気になる会話が耳に入ってきた。
「最近知ったんだけどHealth Coreのデータって社外でも使われてるらしいよ」
その一言が耳に入った途端、それまでのゆるい気分は吹き飛んでしまった。そんなことは事前に言われていただろうか。私はさっきより集中してその会話を聴き始めた。
「そんなこと説明されてたっけ?」
「なんかね、かなり前のアップデートの時に規約更新があったみたい」

 そういえば半年ほど前に同意を求めるボタンを押したような気がする。あの時に私は規約を確認しなかった。どうせ社内で使うデータだし、今までメリットしかなかったのだから何も変わらないだろうと思ったのだ。だが社外で使われているとなると少し心持ちは違ってくる。誰に何のデータがどこまで渡っているかわからない。今までは人事や上司に見せるためにデータを出していたし、良いデータを出すコツも掴んでいた。会社を疑う訳ではないが、自分のデータが勝手に商品になっているのはなんだか不快だった。デメリットを感じると今までのやる気がすぅっと冷えていく。これから私はこのシステムにどうやって向き合えば良いのだろうか。

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