2030年

shortshort25

信用、信頼、真実。

私が財務部門に異動してからずっと一緒の、社内外から評判の高い8年目社員の森下くん。その森下くんが、交際中の恋人から刺されたという衝撃的な便りが届いたのも束の間、結婚詐欺で捕まった。二重に驚いたが、驚く暇もない管理職。土曜日の午前中に、報道対策会議で徴集された。

彼は、複数の女性と「結婚を前提に」お付き合いをしており、それを知った恋人Aが恋人BのSNSを見つけ直接コンタクトをとったことがきっかけだ。当然彼女たちの矛先は当然自分たちの恋人である森下くんになり、逆上した恋人Bによる犯行だった。
信用評価データを管理する金融系企業で勤務している恋人Aが、彼のとある行動をきっかけに不信感が募り、不正に彼のデータにアクセスした。行動データや購買データから、他の恋人がいるのを想像するのは容易かった。
彼の普段の仕事ぶりからは、そんな姿は想像できなかったし、恋人Aを「一緒に協業できそう」と仕事で紹介してもらったこともあった。

彼が財務部門に異動した当時は、信用評価が人事にアセスメントデータとして正式に採用される前のことだった。採用後、一度部下全員のデータを見たことがあるが、過去にクレジットカード支払滞納をしていた為海外の審査が通りやすいカードしか使えないことも、プライベートのことだから、と気にしないようにした。
時々のリモートワークが、「母方の祖母の家」と言って寝屋川の位置情報が現在地になっていることがあったが、あれは本当だったのだろうか。

今回を機に、今後信用評価のアセスメントデータが採用担当や管理職でより重要視されることは明らかだ。
私は、いままで実績など数値データだけでなく、プロセスや人柄なども重視して評価してきた。森下くんも、仕事ぶりはもちろんだが臨機応変な対応の速さや体力、取引先への態度など人柄も踏まえて信用し、評価してきた。

これから一体、何を信じればいいのだろうか。

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shortshort22

TAZAZON(個人データ売買サイト)

 もしも、特定の個人のデータを不特定多数の誰でも購入できるようになったら、どんな世界がやってくるのだろうか。
 坂本龍一のようにガンになった有名人のPHRはデータ売買サイトに出され、同様の病気になった人がそのデータを買い、どのような対応をしていくような世界になるのだろうか。しかも、坂本龍一だったなら、そのデータでの収益を医療医薬の開発に寄付してしまうのではないだろうか。そのような社会貢献のようなカタチを取るサービスを検討するのも重要ではないだろうか。
 一方で、購入したデータが本当のデータなんだろうか、データは化粧されたデータであったり、データの名前が有名人なだけで、赤の他人のデータをつかまされてしまうような犯罪が起こったりもするのではないだろうか。また、乗っ取りという形でデータが売買され、データを性的な取り扱いとして売買されたり、子供たちが危険に巻きこまれるような世界がきたりすることもあるのだろうか。
 このような状況の中で、安全に特定の個人のデータを売買でき、有用に取り扱う事ができるようにするにはどのような仕組みをつくれば良いだろうか。

 このような問題意識を元に作成したシステムがTAZAZONです!じゃーーーん⭐︎
 TAZAZONでは、取り扱うデータの安全性、本人データである信頼性が担保されているシステムで、売買されるデータの入手先、年齢、情報提供の方法などにポリシーがあり、人々から安心して使用される事が可能となっています。世界中の人のデータが有効に売買する事ができ、バージョンによっては、特定の個人を外すことによって定量的なデータを購入することも可能。オプションとして、思いっきりマニアックな質的なナラティブ情報を安全に入手することもできるため、極めて症例が少ないケースなども見る事が可能になる。

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医療データ改竄、NFTへの大きな疑義 医療用AIへも影響

 2030年4月25日、警視庁は電磁的記録不正作出の容疑で東京都戸田啓司容疑者を逮捕した。

 近年、健康データのNFT(非代替性トークン)を用いた売買が認知されてきている。容疑者は、特定の個人の医療データが紐づけられたNFTを偽造した容疑が持たれている。
通常NFTは偽造が不可能であるとされる。しかし、NFTは単独の取引所であれば、取引所内でデータの唯一性が保証されるが、取引所を跨げば唯一性が保証されないことはあまり知られていない。

 容疑者はA取引所で流通しているデータのデータ元サーバーにデータを改竄した上で、別のB取引所で売買を行なったと考えられている。 さらに、容疑者は単純にデータの売却を行なっていただけでなく、データの売買を通じてマネーロンダリングを行っていた事が発覚した。そのため、警察は容疑者の背後に国際的なシンジケートが関与していたものとして捜査をしている。

 この事件はNFTそのものの信頼を傷つけると考えられるが、余波はそれにとどまらないと予測される。
偽造されたデータによって学習された医療用AIが存在し、AIの学習が汚染されてしまっている可能性が指摘されている。これによって広く利用されていた医療用AIについても利用に疑義が出る状態となっている。今後、医療全体でのデータの利活用をめぐる議論が巻き起こることは避けられない見通しだ。

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あの時は自分じゃなかっただけ

 「欧州のAI倫理を取り入れた法制度が施行されます」
そんなニュースが流れてから私の生活は一変してしまった。

 それは、9年前に私の勤める会社がHealth Core を導入したときと同じくらいの変化だった。新しい法制度ではAIに判断を委ねることが禁止された。データに基づいた人事で業績を伸ばした会社はその勢いで経営にもAIを導入していたのだ。
それから会社は変わった。これまでとは一転して人間の判断に重きを置くようになった。現在残っている社員は私と同じようにデータで評価されることに慣れている人間ばかりで、みんな変化に戸惑っていた。

 しかし、少しずつ違いが見え始めた。評価方法が変わったことにより、上司との相性や職場での人間関係で差がつくようになってしまったのだ。今までは同じようにデータを入れておけば良い評価がもらえた。でも相手が人間だと向こうの気分ひとつで何もかもひっくり返ってしまう。何をするにも人の判断に怯える羽目になり、息苦しくなってしまった。
 9年前にデータでの評価になれず、辞めて行った人たちも同じ気持ちだったのだろうか。あの人たちが今ここにいたら私より評価が良いのだろうか。

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脱出する人々

2030年のデータ倫理法の施行で、企業は授業員の行動データなどの運用に多大なコストを払うことになったが、一方そのデータの活用については「倫理的」という枠がはめられたために思うに任せず苦しんでいた。
苦しんでいたのは企業だけではない。ここでは1組のカップルが危機を迎えていた。

大津  もうやってられない! 業績は下がってるし、私の評価も前よりいい加減だし。あいつらはデータ経営するつもりがないのよ。

田澤  そんなことないよ。ルールの中で彼らだって頑張ってるんでしょ?

大津  私はちゃんとデータを出してるのに、出してない奴らと差を付けないから、ちっとも評価が上がらないじゃない。

田澤  いや、でもデータを出さない従業員を不当に差別しないっているルールだし…

大津  大体あんな法律ができたのがいけないのよ。あれ以来、日本のデータ活用は進まないどころか退歩しちゃったじゃない。

田澤  そうかも知れないけど、だからって香港に移住とか言い出さなくても。

大津  私はね、沈んでいく国の沈んでいく企業なんかと心中するつもりはサラサラないのよ。

田澤  でも、おれ日本史の先生だからついて行けないよ…

大津  あなたは難しいかも知れないけど、私はSEだし実力あるし、どこでもやって行けるのよ!

田澤  それって、もう別れるってこと…?

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