shortshort14
会社と契約しているデータプロバイダーが中国の大手企業になった。それに伴ってデータが利用される範囲も変わり、毎日、関係各所への説明に追われている。データを提供している社員に対してデータを扱う社員は圧倒的に少なく、ひっきりなしに押し寄せる不安や疑問に対処するために研究でデータを集めていた自分まで駆り出される始末だ。おかげで想定外の仕事が増えて、今まで通りの生活では体力が戻らなくなってしまった。自分が提供しているデータもすっかり悪化した。
十分な休息が取れないままデータが低迷し続けて半月ほど経った時に面談の打診がきた。過去の求職者や退職者のデータと類似した点があるとカウンセリングを受けさせるシステムがあるのだ。呑気に面談を受けているうちに仕事はどんどんたまるし、そもそもデータについての説明のせいで自分のデータが低迷している。上司にも報告が行く面談でそんなこと言えるはずもない。今は猫の手も借りたい状況なのだ。
もう一つ困ったことがある。研究用に集めていたデータも利用範囲が変わってしまったため一度説明をし直さなければならない。しかし、個人情報と紐づけていなかったために提供者の特定ができなかった。この研究は会社の利益に関わるのでやらねばならないが、本人に満足な説明がでいないままデータを利用していいのだろうか。こんな気持ちで自分はこれからやっていけるのだろうか。
shortshort10
戸田啓司は現在52歳。会社に言われるがまま、ヘルスウォッチアプリを毎日つけ、メンタルの状態を入力している。今日は、昨日娘と喧嘩をしたため「最悪」に評価をつけた。25歳になる娘と就活に関して言い合いになったのだ。就活生の中で、リモートワークの有無や福利厚生と並び「配属や待遇へのパーソナルデータ利活用の度合い」が注目されるようになってきたらしい。健康データを会社にとられていることを非難された。家族との時間を大切にしながら、働き続けているのにむなしい。今日は娘の好物の麻婆豆腐を作って許してもらおう。娘が帰ってきたようだ。
娘の怒りはどうやら昨日より増している。え、中国での信用スコアが下がっている?中国に行ったこともないのに。
今、中国人の王さんと交際中?聞いていないぞ。
王さんが利用している中国の信用スコアのアプリで、父親の評価が非常に低いことを心配されたそうだ。
どうやら、会社が導入しているヘルスウォッチのサービスのプロバイダーが2年前に倒産して、中国企業に買収されたらしい。しかも、業務で健康管理されるだけでなく、中国の信用スコアにまで影響していたなんて。
知らなかった。今からでも良いデータを入力すれば、挽回できるのだろうか。良いデータが作成できると同僚の大津が言っていたジムに行ってみよう…
幸い、娘も王さんもデータのみで管理されることを避けていて、信用スコアをそこまで信用していないらしい。娘はデータを収集しない会社に勤めているし、王さんは最低限必要なデータを提供しながら、スコアをうまく保っているそうだ。
ただ、このままのスコアでは中国への入国審査が厳しいそうだ。
shortshort9
大手システム開発会社の営業職。外回りが多いので就業時間はスマホの勤務管理システムとGPSで管理されている。営業の成績に加え、勤怠状態も良いので、お客様には感謝され、上司には評価されている。
最近は新入社員と一緒に営業に出るようにしているが、いろいろ手間がかかるので、スムーズに仕事が出来ないことが多い。勤務状態を監視されているので、自分の不手際だと思われたくないので、注意をするようにしている。
そんなある日、米国シリコンバレーの大企業に再就職ができるチャンスが回ってきた。セカンドライフは海外に住みたいと思っていた。自分なら業績も良いし、問題ないだろうと思い、はりきって応募をしてみた。
ところが、書類審査で不採用となった。不服なので問い合わせてみると、以下の回答だった:
残業が多すぎる=タイムマネージメントのスキルが少ない
自分の仕事ばかりで部下のサポート時間が少ない=人材育成の能力がない
部下からの多面評価の点数が低い=上司・人間性に問題がある
日本の企業では評価の対象である勤勉さや自分本位での業績の良さは、タイムマネージメントやチームワークを重視するアメリカの企業では評価がされないようだ。
良かれと思って蓄積してきたデータをアメリカ視点で見ると、誰も教えてくれなかった客観的・グローバルな視点での自分を知ることができた。気持ちを切り替えて、海外でも通用するようなセカンドライフを生きようと思う。
shortshort8
私は自分の食生活や運動習慣を厳しくコントロールしている。周りからは意識が高いって言われるけど、自分のことを自分で管理できないなんて甘すぎると思わない?
普段使っているヘルスケアアプリは健康データやバイタルデータの成績に応じてポイントがもらえるんだけど、最近そのサービスがアメリカの企業に買収されて、提供できるデータの幅ともらえる報酬が拡大されたの…
━好機!これで私のこの美しいデータがもっと評価される!
ああでも昨日は睡眠時間が理想より3分も少なかった…。もっと日々の暮らしを厳密にコントロールしなきゃね。
せっかくだから周りの人も管理してあげようと思って、美しいデータを作るためのコンサルとデータ作成代行事業も始めたんだけど、みんな意識低すぎない?いい生活はいいデータから作られるのに…。美しいデータを作ればお金がもらえるし、それでまた自己投資できるんだから。もし必要であればあなたのデータも管理するけど…?
最近は歩数を稼ぐために鳩を飼い始めてるの。鳩の頭に歩数計を付けておけば、彼らがポッポと首を振るたびに歩数がカウントされる仕組み。睡眠データはウサギに作ってもらってるし、体脂肪率のデータはづくりはヘビに手伝ってもらってる。
家が動物園みたいになってきたけど、しょうがないよね。これも美しいデータを作るための自己投資なんだから。
ああ…またヘビがウサギを食べようとしている…。でももうベッドに入らなきゃ。あと53秒で寝る時間だから…。