田澤 元基

データ利活用に一定の知識があり、データ共有先のリテラシーを信用

東京都在住の36歳男性。医薬品メーカーに勤務。新薬開発の研究主任で、データサイエンティスト。普段から生体データなどを集めて活用する立場。部下が2名いる。現在は在宅が7割。

利用しているデータと活用の方法

保険組合が2年前に「健康支援アプリ」を導入した。健康診断・ストレスチェック結果が見られる。その他、毎日の睡眠時間や歩数、エクササイズ時間、体重、血圧などを入力する。 製薬研究開発のために、スマートウォッチを社員(ボランティア)に貸与して、データを収集して研究部門で活用している。その際社員に、1ヵ月間入浴時以外は着用するように依頼している。被験者の年齢・性別とデバイスの基本値を掴むことが目的。

データ利活用にまつわる体験や考え

普段、自分がデータの扱いを注意深く扱うことが課せられていることもあり、会社のデータの取り扱いへの信頼が高い:「医療業界には『ヘルシンキ条約』といって、被験者の保護やデータの取り扱い手順に配慮するための倫理的なガイダンスがあり、社内の有識者が抵触しないかチェックするプロセスがある。今回の研究ではデータと個人を紐付けないことでリスクを回避する考え方。個人的に、データを取られる側としても、個人を特定する情報と紐づかない限り不安はない」 データ共有先を信頼し、健康に問題がないため、データ共有に抵抗がない:                  「自分が提供したデータをどう扱うかは、人事と健保から説明があった。また、情報取り扱いの説明欄に、個人情報との紐付けがないことや、目的外利用をしないことが明記されていた。うちの会社であればそれを守ると思える」 「精神的な病気や休職が未然に防げるのであれば、自分はデータを提供しても良いよと思う。」

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医療データ改竄、NFTへの大きな疑義 医療用AIへも影響

 2030年4月25日、警視庁は電磁的記録不正作出の容疑で東京都戸田啓司容疑者を逮捕した。

 近年、健康データのNFT(非代替性トークン)を用いた売買が認知されてきている。容疑者は、特定の個人の医療データが紐づけられたNFTを偽造した容疑が持たれている。
通常NFTは偽造が不可能であるとされる。しかし、NFTは単独の取引所であれば、取引所内でデータの唯一性が保証されるが、取引所を跨げば唯一性が保証されないことはあまり知られていない。

 容疑者はA取引所で流通しているデータのデータ元サーバーにデータを改竄した上で、別のB取引所で売買を行なったと考えられている。 さらに、容疑者は単純にデータの売却を行なっていただけでなく、データの売買を通じてマネーロンダリングを行っていた事が発覚した。そのため、警察は容疑者の背後に国際的なシンジケートが関与していたものとして捜査をしている。

 この事件はNFTそのものの信頼を傷つけると考えられるが、余波はそれにとどまらないと予測される。
偽造されたデータによって学習された医療用AIが存在し、AIの学習が汚染されてしまっている可能性が指摘されている。これによって広く利用されていた医療用AIについても利用に疑義が出る状態となっている。今後、医療全体でのデータの利活用をめぐる議論が巻き起こることは避けられない見通しだ。

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想定外

 会社と契約しているデータプロバイダーが中国の大手企業になった。それに伴ってデータが利用される範囲も変わり、毎日、関係各所への説明に追われている。データを提供している社員に対してデータを扱う社員は圧倒的に少なく、ひっきりなしに押し寄せる不安や疑問に対処するために研究でデータを集めていた自分まで駆り出される始末だ。おかげで想定外の仕事が増えて、今まで通りの生活では体力が戻らなくなってしまった。自分が提供しているデータもすっかり悪化した。

 十分な休息が取れないままデータが低迷し続けて半月ほど経った時に面談の打診がきた。過去の求職者や退職者のデータと類似した点があるとカウンセリングを受けさせるシステムがあるのだ。呑気に面談を受けているうちに仕事はどんどんたまるし、そもそもデータについての説明のせいで自分のデータが低迷している。上司にも報告が行く面談でそんなこと言えるはずもない。今は猫の手も借りたい状況なのだ。

 もう一つ困ったことがある。研究用に集めていたデータも利用範囲が変わってしまったため一度説明をし直さなければならない。しかし、個人情報と紐づけていなかったために提供者の特定ができなかった。この研究は会社の利益に関わるのでやらねばならないが、本人に満足な説明がでいないままデータを利用していいのだろうか。こんな気持ちで自分はこれからやっていけるのだろうか。

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脱出する人々

2030年のデータ倫理法の施行で、企業は授業員の行動データなどの運用に多大なコストを払うことになったが、一方そのデータの活用については「倫理的」という枠がはめられたために思うに任せず苦しんでいた。
苦しんでいたのは企業だけではない。ここでは1組のカップルが危機を迎えていた。

大津  もうやってられない! 業績は下がってるし、私の評価も前よりいい加減だし。あいつらはデータ経営するつもりがないのよ。

田澤  そんなことないよ。ルールの中で彼らだって頑張ってるんでしょ?

大津  私はちゃんとデータを出してるのに、出してない奴らと差を付けないから、ちっとも評価が上がらないじゃない。

田澤  いや、でもデータを出さない従業員を不当に差別しないっているルールだし…

大津  大体あんな法律ができたのがいけないのよ。あれ以来、日本のデータ活用は進まないどころか退歩しちゃったじゃない。

田澤  そうかも知れないけど、だからって香港に移住とか言い出さなくても。

大津  私はね、沈んでいく国の沈んでいく企業なんかと心中するつもりはサラサラないのよ。

田澤  でも、おれ日本史の先生だからついて行けないよ…

大津  あなたは難しいかも知れないけど、私はSEだし実力あるし、どこでもやって行けるのよ!

田澤  それって、もう別れるってこと…?

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