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私が財務部門に異動してからずっと一緒の、社内外から評判の高い8年目社員の森下くん。その森下くんが、交際中の恋人から刺されたという衝撃的な便りが届いたのも束の間、結婚詐欺で捕まった。二重に驚いたが、驚く暇もない管理職。土曜日の午前中に、報道対策会議で徴集された。
彼は、複数の女性と「結婚を前提に」お付き合いをしており、それを知った恋人Aが恋人BのSNSを見つけ直接コンタクトをとったことがきっかけだ。当然彼女たちの矛先は当然自分たちの恋人である森下くんになり、逆上した恋人Bによる犯行だった。
信用評価データを管理する金融系企業で勤務している恋人Aが、彼のとある行動をきっかけに不信感が募り、不正に彼のデータにアクセスした。行動データや購買データから、他の恋人がいるのを想像するのは容易かった。
彼の普段の仕事ぶりからは、そんな姿は想像できなかったし、恋人Aを「一緒に協業できそう」と仕事で紹介してもらったこともあった。
彼が財務部門に異動した当時は、信用評価が人事にアセスメントデータとして正式に採用される前のことだった。採用後、一度部下全員のデータを見たことがあるが、過去にクレジットカード支払滞納をしていた為海外の審査が通りやすいカードしか使えないことも、プライベートのことだから、と気にしないようにした。
時々のリモートワークが、「母方の祖母の家」と言って寝屋川の位置情報が現在地になっていることがあったが、あれは本当だったのだろうか。
今回を機に、今後信用評価のアセスメントデータが採用担当や管理職でより重要視されることは明らかだ。
私は、いままで実績など数値データだけでなく、プロセスや人柄なども重視して評価してきた。森下くんも、仕事ぶりはもちろんだが臨機応変な対応の速さや体力、取引先への態度など人柄も踏まえて信用し、評価してきた。
これから一体、何を信じればいいのだろうか。
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2030年のデータ倫理法の施行で、企業は授業員の行動データなどの運用に多大なコストを払うことになったが、一方そのデータの活用については「倫理的」という枠がはめられたために思うに任せず苦しんでいた。
苦しんでいたのは企業だけではない。ここでは1組のカップルが危機を迎えていた。
大津 もうやってられない! 業績は下がってるし、私の評価も前よりいい加減だし。あいつらはデータ経営するつもりがないのよ。
田澤 そんなことないよ。ルールの中で彼らだって頑張ってるんでしょ?
大津 私はちゃんとデータを出してるのに、出してない奴らと差を付けないから、ちっとも評価が上がらないじゃない。
田澤 いや、でもデータを出さない従業員を不当に差別しないっているルールだし…
大津 大体あんな法律ができたのがいけないのよ。あれ以来、日本のデータ活用は進まないどころか退歩しちゃったじゃない。
田澤 そうかも知れないけど、だからって香港に移住とか言い出さなくても。
大津 私はね、沈んでいく国の沈んでいく企業なんかと心中するつもりはサラサラないのよ。
田澤 でも、おれ日本史の先生だからついて行けないよ…
大津 あなたは難しいかも知れないけど、私はSEだし実力あるし、どこでもやって行けるのよ!
田澤 それって、もう別れるってこと…?