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矢島は、流通会社のシステム企画を提案している。商品をピックアップする人たちがより効率的に仕事が回るようにするため、脳波や瞳孔を分析し、一番良いタイミングで人員配置するものだ。
どんなデータを取られても仕方ないだろう、だってレベルの低い人なのだから。それで生産性はあがるし、彼らだって、その分効率的に働けると嬉しいんじゃないかな。
システム開発は佳境に。最近ではノーコード開発できるため、企画者の矢島も開発に駆り出された。慣れない矢島は大きなバグを連発してしまう。見かねた管理者から、脳波を測るよう勧められた。
「君は夜中が活性化しているようだね。この時間に開発するとバグがなくなると思うよ。やってみたら?だって仕方ないよね、レベルが低いのだから。これ以上バグがでたら君だって立場なくなると思うし。」と管理者からアドバイスされた。
ハッとした矢島は、すぐに会社をやめデータハラスメントの専門知識と心のケア方法を学べる専門学校に通い始めた。
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海野社長は、人事データや勤務データ・定期アンケートなどを活用し、メンタル休職者にパターンが似た従業員を予測・早期ケアを促すシステムを導入した。導入後、一年が経過して、メンタル休職者が依然多いことに不安をもった海野社長は、経営コンサルの勧めにより、推測精度を高めるために、エムフォー社のセンシティブ情報収集システムを導入し、DNA情報、脳波情報なども収集することになった。収集は本人同意が建前だが、賞与スコアにも反映するとのことで、実質的な強制であった。
戸田さんは、こうした会社の動きに不満をもっていたが、反対しても無駄だと思っていたため、データ収集に同意した。同意すると会社からは契約保養所のクーポン券や食事券などが貰えることがわかり、その後特段の不快な体験もなく当初もっていたデータ提供への拒否感が段々と少なくなっていった。その後、システムを提供したエムフォー社が経営不振となり、外資企業に買収されると事件が起こったが、経済問題に関心のない戸田さんはこのニュースに無関心で、またシステムの運営にも影響がなかったため、記憶から抜けていった。
システム導入後3年がたち、戸田さんは、義父の介護のためB県に移住することになった。このため長年努めたA社を退職し、B県での新しい仕事を探し始めた。戸田さんは転職マッチングサイトに登録し、本格的な転職活動を始めた。戸田さんは、紹介された数社で面接を受けるが、いずれに最終面談のあとで、不採用という通知を受けるケースが続いていた。
ある日、戸田さんは、SNSで、ある転職コミュニティサイトが、DNA情報やWEB閲覧履歴をもとに「就職適正スコア診断サービス」を提供しているとの記事をみかけた。エムフォー社を買収した外資企業が提供するサービスで、エムフォー社が集めた会社内での多様な情報をもとに、対象者の協調性や退職リスクを計算するというものであった。試しに、自身のデータを登録してスコアを見ると、協調性に難があり、退職リスクも高いとの判定結果が得られた。
戸田さんは、転職マッチングサイトとの契約を解除したが、この情報は裏で取引されているようで、希望する条件での就職はなかなかできなかった。