狭山 芳江
データによる判断を過度に恐れる
神奈川県在住の53歳女性。大手情報系サービス企業の事業部付きの人事担当。本部人事部がデータ利活用に積極的なため、データをもとに意思決定する人事を体験している。現在の出社と在宅の割合は5割ずつ。3年前から、持病の悪化が気になってきた。
利用しているデータと活用の方法
彼女の会社では、社員の能力や適性をはかり、仕事との適切なマッチングをするためのサービス「w-match」を活用している。約100問の計算や言語に関する問題に答えると、自分の能力や特性が5段階評価で示される。 本部人事部が管理する社員個々のプロファイルには、健康診断結果も記載されている。また、本部人事部は、離職やメンタルダウン防止のために、日々の気分や体調、仕事のやりがいについて、週に一度、4段階で答えるサーベイを導入した。社員の回答が、過去に休職・離職した人の回答パターンと類似していると、人事部から問い合わせが来る。 就業時間中は社用スマホのGPSにより、全社員の位置情報が共有される。コロナ以降、場所にとらわれない働き方が許されるようになったと同時に、安全管理・労務管理の目的で導入された。
データ利活用にまつわる体験や考え
データの提供先の顔が見えない/信頼関係がないことが目的以外に使われる恐れを生む:「私には持病がある。歳をとるごとに悪くなっているので、今後それを本部人事部がどう判断するのか心配です」「本部人事部が、w-matchを今後どう使うのかはわからない。協調性や組織従順性などが低かった場合、昇進・昇格できないということが起こることは目に見えている。意図しない異動も増えるかも」
データによる人材評価は、一方的に能力を決めつけられる感覚で、人の可能性を狭める:「w-matchの結果を見て、自信を無くす人もいるのではないか。 自分は言語スキルが5で数的推理が3なのに、なぜ、人事の前に財務を長年やっていたのか。3も真ん中の数値だけど、結構ネガティブに捉えている。なんかがっかり感」
位置情報は、個人的な嗜好や関係性、プライベートな行動を想像しやすく、データの提供者は人格を決めつけられる・先入観を持たれるという恐れを抱きやすい:「昼休みに、外にランチに行かなくなった。この人、ここでこんなご飯食べてると思われるのは気恥ずかしい。ほとんど毎日、お弁当を作って、社内のデスクで食べています」
メンタル不調の情報は、病気の事実以上のネガティブな先入観や決めつけを生み出す:「メンタル不調は、さまざまな要因がある。気分のむらや、仕事の成果が出てないとか、プライベートなことが影響していることもある。そういうことを、サーベイの回答によって会社の人に詮索されたくない。『そういった目で見られる』のがいやなので、本心と異なることを記入します」