ありふれた毎日のビザ
戸田啓司は現在52歳。会社に言われるがまま、ヘルスウォッチアプリを毎日つけ、メンタルの状態を入力している。今日は、昨日娘と喧嘩をしたため「最悪」に評価をつけた。25歳になる娘と就活に関して言い合いになったのだ。就活生の中で、リモートワークの有無や福利厚生と並び「配属や待遇へのパーソナルデータ利活用の度合い」が注目されるようになってきたらしい。健康データを会社にとられていることを非難された。家族との時間を大切にしながら、働き続けているのにむなしい。今日は娘の好物の麻婆豆腐を作って許してもらおう。娘が帰ってきたようだ。
娘の怒りはどうやら昨日より増している。え、中国での信用スコアが下がっている?中国に行ったこともないのに。
今、中国人の王さんと交際中?聞いていないぞ。
王さんが利用している中国の信用スコアのアプリで、父親の評価が非常に低いことを心配されたそうだ。
どうやら、会社が導入しているヘルスウォッチのサービスのプロバイダーが2年前に倒産して、中国企業に買収されたらしい。しかも、業務で健康管理されるだけでなく、中国の信用スコアにまで影響していたなんて。
知らなかった。今からでも良いデータを入力すれば、挽回できるのだろうか。良いデータが作成できると同僚の大津が言っていたジムに行ってみよう…
幸い、娘も王さんもデータのみで管理されることを避けていて、信用スコアをそこまで信用していないらしい。娘はデータを収集しない会社に勤めているし、王さんは最低限必要なデータを提供しながら、スコアをうまく保っているそうだ。
ただ、このままのスコアでは中国への入国審査が厳しいそうだ。
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